「根っからの芸術家で、芸術キャリアを文章と視覚芸術に捧げている。弁護士は今、人生を創造芸術に捧げ、無数の経験を注いで力強く、印象的な芸術作品を創造している」
ニューヨークのアートディーラー、ジョルジュ・ベルゲス(Geroges Berges)がこう紹介するのは、今年からアーティストに変身を遂げたバイデン大統領の息子ハンター氏(51)のこと。
Artnetによると、元ロビイストで弁護士のハンター氏は現在、フルタイムのアーティストとして作品制作に励んでおり、今秋にはニューヨークで初のエキシビジョンを予定している。ディーラーによると作品の値段は7万5,000ドル(820万円)から50万ドル(5,500万円)だという。
ハンター氏といえば、これまで、父親が副大統領だった頃に役員を務めたウクライナの天然ガス会社や、中国企業との取引などを巡って様々な疑惑が浮上し、昨年の大統領選では、トランプ陣営や共和党の格好の攻撃材料とされた。さらに現在、デラウエア州の連邦検事局から税務に関する捜査を受けていることも明らかになっている。
大統領の家族が職業を追求することには問題がないが、商売の性質上、ハンター氏の新たなキャリアは、ホワイトハウスにとって慎重を要する問題のようだ。
倫理上の懸念
ワシントンポスト紙は8日、ハンター氏の作品販売から生じる倫理的な問題を避ける為、ホワイトハウスの高官らが、購入者の情報の取り扱いなどに関するディーラーの同意書の作成を手助けしたと伝えた。
ディーラーは、自分で価格を設定し、入札者と最終購入者などのすべての記録を、ハンター氏を含む外部に一切公表しないほか、疑わしい購入者や提示価格を上回るオファーを拒否することに同意したという。
作品の購入を通じて政権にアクセスしたり、取り入ったりすることを防ぐための対応とのことだが、専門家からは問題を指摘する声が上がっている。
ジョージ・W・ブッシュ政権で倫理担当弁護士を務めたリチャード・ペインター氏は、同紙に「ひどく高い価格だ」と述べ「ハンター氏が大統領の息子の立場を利用して、多額の金を払わせたいと思っているというのが、多くの人々の最初の反応だろう」と指摘。さらに、高価値のアート作品の二次市場は財務省が警告するとおり、追跡困難で、購入者の匿名性を利用して外国人が制裁を迂回し、米国経済へのアクセスを可能にする恐れがあると語った。
また、ハンター氏が購入者を知らないことを監督する方法もないため、ホワイトハウスへのアクセスが買収されたかどうかを知ることができないと問題点を挙げた。
これとは反対に、ホワイトハウスに影響を与えようとする試みから保護するには、情報を開示して、国民がロビイストが法外な値段を払ったかどうかを知ることができるようにするべきとの声も上がっている。
作品の評価についても意見がわかれるようだ。
マンハッタンでギャラリーを所有するマーク・ストラウス氏は、7万5,000ドルから50万ドルの提示価格について、プロのトレーニングを積んでおらず、一度も市場で売買されたことのないアーティストにつけられない値段と主張。名前が価格に影響しているとの考えを示した。作品については「悪くない」と評価しつつ「悪くないことと素晴らしいことの間には大きな隔たりがある」と語った。
モダン・ペインター・マガジンの元編集長、スコット・インドリセック氏は、スクリーンセーバーと、グーグルでミッドセンチュリーの抽象作品を検索した際にでてくる作品の中間のようなものと酷評。さらに、作品だけで判断されたいのならば、バイデンの名前を出さずにペンネームを使えばよいと指摘した。
共和党は、来年の中間選挙で下院を奪還した暁には、ハンター氏の調査を進める意向を示しており、バイデン政権にとっては、追加の政治リスクとなりかねない。ブリスマ社をはじめ、倫理的な問題が度々指摘されてきたハンター氏だが、今回は、批判をうまくかわせるだろうか。