トランプ前大統領は21日、2018年のニューヨークタイムズの納税記録に関する報道を巡り、同紙とその記者3人、および姪のメアリー・トランプ氏に対し、1億ドルを超える損害賠償を求める訴訟をニューヨーク州のダッチェス郡裁判所に提起した。
トランプ氏は訴状で、記者らは「陰湿な企みに従事して機密記録を入手」し、これを「自分たちの利益のために悪用し、出版物を正当化する手段に不当に利用した」と主張。記者たちは、メアリー氏を執拗に追求し、「彼女の弁護士事務所から記録を密かに持ち出し、タイムズに引き渡すよう」説得したと述べた。
メアリー氏について、2001年の和解契約に違反したと主張。1999年のフレッド氏の死から2年後、メアリー氏を含む家族が締結した和解契約には、フレッド氏の財産に関する情報の共有を禁じた機密保持条項が含まれているという。また、記者らは、メアリー氏が文書の公開を禁じられていることを認識していたとも主張した。
タイムズは2018年10月の記事で、トランプ氏は、一代で億万長者になったとの主張に反し、長年にわたって父フレッド氏の不動産事業から多額の金を受け取っており、この多くは疑わしい税務処理を通じたものだと報じた。
記事では、情報ソースについて、元従業員の証言や公に入手可能な財務情報、銀行明細をはじめとした数万ページにおよぶ機密記録、フレッド氏の企業の納税申告書だと説明している。
トランプ氏は、今日の価値にして少なくとも4億1,300万ドルを受け取っており、トランプ氏の財力は、父親の富と深く関係し、依存したものであることが明らかになったと結論づけている。
メアリー氏は、昨年発売した自著「Too Much and Never Enough: How My Family Created the World’s Most Dangerous Man」の中で、記事のベースとなった資料を提供したと明かしている。
トランプ氏の弁護士、チャールズ・J・ハーダー氏は当時、報道は「100%虚偽」と主張。「タイムズが誤った主張の根拠にした事実は、非常に不正確だ」と、報道の元になった情報の信頼性を攻撃した。
ただ、今回の訴訟について、一部からは、トランプ氏は報道の正確性を半ば認めたようなものはないかと指摘する声が上がっている。
ビジネスインサイダーは、トランプ氏は訴状で、メアリー氏が提供し、報道の元になった財務記録やデータの信ぴょう性に異議を唱えていないと指摘。
NBCの記者、トム・ウィンター氏もMSNBCの番組で「ここで興味深いのは、本質的に報道を証明していることだと思う」と述べ「資料がフェイクならば、訴える理由がない」と語った。「タイムズが彼の納税記録に関する資料の公開をはじめたとき、大統領は完全なフェイクニュースだと主張していたが、これ(訴訟)は実質的に彼らの報道を裏付けるもので、そうでなければ訴訟を起こして損害賠償を請求するだろうか?」と話した。
タイムズの記者、スザンヌ・クレイグ氏とデビッド・バーストウ氏、ラッセル・ビュートナー氏は、この報道によってピューリッツァー賞を受賞した。
クレイグ氏とビュートナー氏は、昨年9月のスクープ記事も手がけている。記事では、トランプ氏が過去15年間のうち10年間は連邦所得税を支払っておらず、さらに2016年と2017年に収めた所得税はわずかに750ドルだったことが明らかにされた。
トランプ氏はこれについても、ホワイトハウスの記者会見で「完全なフェイクニュースで、でっちあげだ」と反論。「私は実際に税金を納めている。現在監査中の私の納税申告書は、君達もまもなく閲覧することができる」と説明した。
なおトランプ氏は最後まで納税記録を開示しないままホワイトハウスを去った。
Axiosによると、タイムズの広報、Danielle Rhoades氏は声明で、訴訟は「独立した報道機関を黙らせようとする試み」と批判。積極的に戦う姿勢を示した。
一方、メアリー・トランプ氏はNBCに「負け犬」の叔父は「絶望」しており、「包囲網が狭まって、できる限りことを試している」とコメント。「いつものとおり、矛先を変えようとしている」と語った。