イリノイ州クック郡の裁判所は26日、3カ月間にわたってシカゴのオハラ国際空港内で暮らした男性に、無罪判決を言い渡した。シカゴトリビューンが報じた。
無罪となったのはインド出身の男性、アディタ・シン(Aditya Singh)さん(37)。不法侵入などの罪で起訴されていた。これとは別に、保釈中の条件に違反したとして起訴されており、29日に再び審理を控えている。
シンさんは、昨年10月19日にロサンゼルスからオハラ国際空港に到着したが、そのまま空港を出ることなく、翌年1月16日に逮捕されるまで、空港の制限エリア(保安検査を通過した旅客や職員が立ち入りを許可されるエリア)に滞在した。
逮捕後、この話は大きく報じられ、まるでトム・ハンクス主演の映画『ターミナル』のようだとして、全米の注目を集めた。
シカゴ行きはインドに帰国する旅の一環だったという。検察によると、シンさんは捜査当局に、コロナウイルスで渡航するのが怖くなり、空港に留まったと供述した。空港では、旅行客に食事をおごってもらうこともあったという。
売店やレストラン、共用トイレがあるターミナルエリアに隠れていたが、ユナイテッド航空の職員から身分証の提示を求められたことで問題が発覚。逮捕に至った。シンさんが提示した証明バッジは、空港のオペレーション・マネージャーが10月に紛失届けを出していたものだったという。
逮捕を受け、米国運輸保安局(TSA)も調査に乗り出したが、旅客用のエリア外に出た証拠はなく、空港の規則に対する違反はなかったと結論づけた。
航空課の報道官はシカゴトリビューンに「シンは保全エリアに侵入または不適切に入っておらず、毎日行き交う旅客と同様、飛行機を降りてここに到着した」と説明。空港に止まった動機については「憶測は避ける」と述べつつ、「逮捕に至るまで、乗客や航空会社の職員に溶け込むようあらゆる努力をした」と述べている。
同紙によると、シンさんがアメリカにやってきたのは6年前。2019年夏にオクラホマ州立大学の修士課程を終了した後、カリフォルニア州オレンジ郡に暮らす男性の家に引っ越した。この男性は、父親の世話や雑用をする代わりに、シンさんに住まいを提供したという。
男性は取材に、シンさんは2020年10月にビザの期限が切れ、母親の住むインドへ帰国する計画を始めたと話している。シンさんは同月19日に、ロサンゼルスからシカゴ行きの飛行機に搭乗した。
空港で精神修行?
2人の共通の知人だというメアリー・スティールさんは、空港に滞在中のシンさんとテキストメッセージをやり取りしていた。スティールさんが同紙に明かした内容によると、12月1日のメッセージで、シンさんは「ここで学んでいる、カルマのレッスンを完了しなければならない。そうしたらインドに帰る」と記しており、他の人々と話したり、仏教やヒンズー教の教えを共有するなどして楽しんでいる様子を伝えていた。
さらに1月3日には「この経験のおかげで精神的に成長した。以前よりも強くなっていることがわかる」などと連絡していた。
なお、逮捕後、シカゴの非営利団体から支援の申し出があり、シンさんは保釈金の支払いに加え、住居の提供を受けたという。