ブルース・ウィリスの引退発表後、かつて「ダイ・ハード」や「アルマゲドン」で世界を席巻したスターが、近年、認知上の問題を抱え、撮影が困難になっていた様子が相次いで報じられている。一部で健康問題は周知の事実だったとも伝えられているが、それでも業界が彼を必要とした背景とは?
先月30日、妻のエマ・ヘミングと元妻のデミ・ムーアら、ブルース・ウィリスの家族は連名で「ブルースは健康上の問題をいくつか抱えており、最近になって認知能力に影響を与える失語症と診断された」と説明。「彼にとって非常に大きな意味を持つキャリアから身を引く」と発表した。
小道具銃を誤射
2020年米公開のアクションスリラー映画「ハード・キル」(Hard Kill)で、ブルース・ウィリスの娘役を演じたララ・ケント(Lala Kent)は、ロサンゼルスタイムズの取材に、ブルース・ウィリスが撮影中、台本にないタイミングで、撮影用の小道具の銃を2度誤射したことがあったと明かした。
台本では、ブルース・ウィリスはセリフを言ってから撃つ予定だったが、言葉を発する前に発砲したという。ララ・ケントは撮り直しをする前に、セリフを言い終えてから撃つよう、本人に釘をさすよう監督に求めたが、ブルース・ウィリスはもう一度同じ間違いを犯したという。
なお、プロダクション側と武器係は、誤射をめぐるララ・ケントの説明に異議を唱えている。
同年ジョージア州で撮影された低予算映画「White Elephant」では、ブルース・ウィリスが現場で、自分が何をしているのか周囲に尋ねる出来事があったという。同作の監督、ジェシー・V・ジョンソン氏は、撮影に入る前にブルース・ウィリスと会った時の様子について「私の知っているブルース・ウィリスではなかったのは明白だった」と振り返った。
ブルース・ウィリスのチームに健康状態を聞くと、本人は撮影の参加を望んでいるが、午前中に撮り終えるのが最良だとの答えが返ってきたという。ある撮影スタッフは、ブルースにセリフを教えていたが、理解しておらず「まるでパペットのようだった」と振り返っている。
PageSixは同時期に撮影された作品群について、ブルース・ウィリスがますます演技に困難を抱えるようになり、替え玉の役者を使用したり、出演時間を短縮したりするなどの対応を余儀なくされたと伝えている。
セリフを教えてもらうために、イヤホンをつけて演技をしていたほか、円滑に作業を進めるために撮影場所を自宅近くに変更したり、3日で取り終えた作品もあったといい、ある関係者は同サイトに、この頃すでにブルース・ウィリスの認知能力の衰えは「皆が知っていた」と明かしている。
それでも多作だったワケ
深刻な健康上の問題が周知の事実であったならば、なぜブルース・ウィリスが多作であり続けたのか疑問が湧く。
米国では昨年、8本のブルース・ウィリス出演作品が公開された。「アウト・オブ・デス」は、批評家サイトRotten Tomatoesで「ゼロ評価」となるなど、評判が芳しくないものが多く、今年の「ラジー賞」では、ブルース・ウィリスのために特別部門が設けられたほどだった。なお30日に病気が公表された後、ラジー賞は撤回された。
CBSやNBC、ABCの番組でエグゼクティブ・プロデューサーを務めたジョー・フェルーロ氏はThe Hillの論説投稿で「アカデミー賞の魅力とは程遠いところで、プロデューサーらが投資家と配給元をとりつけるために奪い合う、低予算のアクションとホラー映画の世界がある」と指摘している。
ブルース・ウィリスは過去4年間だけで21作品に出演しているが、この大半が製作費1,000万ドル(12億円)以下の低予算映画で、内容は国際的にウケの良い典型的なバイオレンス・アクションストーリーだという。
自分たちで資金を集めなくてはならない独立系プロデューサーにとって、国際映画市場で投資家から資金を容易に集めるためには、ブルース・ウィリスのような大物の顔が必要で、これらの俳優は最盛期を過ぎていようが、たった数分の出演だろうが問題ない。
フェルーロ氏は、過去2年間のどこかの段階でブルース・ウィリスの健康は一線を超えていただろうとしつつ「彼らはブルース・ウィリスを必要としており、ウィリスも必要としていたのかもしれない」と指摘。今後「ハリウッドはその役割を検証しなければならなず、映画製作全体のエコシステムを検証しなければならないだろう」と、ブルース・ウィリスの引退が、業界に一石を投じることになるとの見方を示した。