ニューヨークタイムズは9日、米当局者の話として、ロシアが、シリア戦で豊富な戦闘経験を持つアレクサンドル・ドボルニコフ(Aleksandr Dvornikov)将軍に、ウクライナ侵攻作戦の全体を監督する任務を与えたと伝えた。
ロシア軍は現在、ウクライナ北部のキーウやチェルニヒウ周辺から完全に撤退。ベラルーシやロシア西部に軍隊を移動させ、ウクライナ東部の攻撃に備えて武器や物資の再配置をしているとみられている。マーク・ミリー統合参謀本部議長は先月31日、東部のドンバス地方周辺で「兵力を集結させ、攻撃を続ける」予定だとして、「まだ重大な戦いがある」と警戒感を示した。
米当局者はタイムズに、ロシア軍にはこれまで、ウクライナ領土で戦闘を指揮する中央戦争司令官がいなかったと説明。統一指揮官の欠如が、空軍、地上軍、海軍部隊をシンクロさせることができず、不十分な兵站や兵士の士気低下、7,000人から15,000人と言われる大量の兵士の損失を招いた可能性があると指摘している。
さらに、少なくとも7人の上級将校らが戦死した背景には、西側では下級の将校が行うべき戦術的課題に対処するために、前線に押しやられたことがあるともみられているという。
タイムズは、ドボルニコフ氏を戦線司令官に任命することよって、これまで別れて編成、指揮されていた様々な部隊間の調整を強化することが可能になると説明している。
国務省の報道官はThe Hillに対し、ドボルニコフ氏に対する回答は避けつつ、「今回の戦争が、プーチンの計画通りに進んでいないのは明白」として、ウクライナによって「素早い勝利が阻止された」とコメント。報道官は、ウクライナ侵攻は「ロシアを弱体化し、国際舞台から孤立させた」とし、「戦略的な失敗」だと述べた。
アレクサンドル・ドボルニコフ将軍とは
ニューヨークタイムズによると、ドボルニコフ氏は、2015年に始まったシリア内戦への軍事介入で約1年間にわたってロシア軍を率いた。2016年に「ロシア連邦英雄」の栄誉を与えられ、同年から、ロシア南部軍管区の司令官を務めている。
西側の当局者や人権団体はシリア戦について、病院や民間人の居住区を標的にした爆撃など、ドボルニコフ氏のもとで採用されたロシア軍の戦術を非難している。
英国を拠点とする「シリア人権監視団」のラミ・アブドル・ラーマン代表は、軍事作戦の指揮官であるということは、ドボルニコフ氏の司令によってシリア市民が殺害されたことを意味すると指摘。アサド大統領とともに、責任を問われるべき人物だと主張している。
ロシア軍から支援を受けたというシリアのキリスト教民兵組織の指揮官はタイムズに、ドボルニコフ氏はシリアで多数の戦場に関与したと説明。「真の指揮官で、非常に真面目で、ロシア軍と軍事史を誇りにしていた」と話したほか、睡眠時間が短く、運動に時間を割き、「几帳面で記憶力が良い」と振り返っている。
戦争研究所によると、ドボルニコフ氏はシリア戦で、データ分析と部下への命令を伝達する速度を上げることの重要性を強調したという。
ワシントンポスト紙によると、ドボルニコフ氏はウクライナで、南部と東部の戦闘を指揮してきた。ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジのマーク・ガレオッティ名誉教授は同紙に、ワレリー・ゲラシモフ(Valery Gerasimov)ロシア軍参謀総長の後任候補とされる人物で、「この世代の重要人物の一人」と説明している。