ロシアによるウクライナ侵攻で緊張が高まり、日本とロシアの関係も悪化するなか、ロシア国防省は4月14日、海軍の潜水艦がロシア極東沖の日本海で巡航ミサイルの発射実験を行ったと明らかにした。発射された巡航ミサイルはカリブル(Kalibr)というもので、ウクライナ侵攻の際にも使用されたという。
今日、ロシアは自らの西での戦いに軍事力を集中させているが、正反対の極東でも軍事的威嚇を示すのにはどういった狙いがあるのだろうか。その狙いは簡単に言えば、欧米と足並みを揃えるようにロシアを強く非難し、経済制裁を強化する日本をけん制するためだ。当初、プーチン大統領は欧米とロシアの対立が避けられない中で日本の姿勢を観察していたはずだが、これまでの経緯で既に交渉の余地なしと判断しているようだ。
しかし、ロシアが日本海など日本周辺で軍事活動を示すのは今回が初めてではない。たとえば、昨年10月、北海道の奥尻島南西およそ110キロの日本海でロシア海軍の駆逐艦など5隻と中国海軍の最新鋭のミサイル駆逐艦5隻が共に航行し、その後津軽海峡を通過して太平洋へ向かい、千葉県の犬吠埼沖、伊豆諸島沖、高知県の足摺岬、鹿児島県の大隅海峡を航行して東シナ海に到達するという出来事があった。また、同月には、中露両国が4日間の日程で極東ウラジオストク沖の日本海で合同軍事演習を実施したことも判明した。
昨年10月の一連の軍事行動はウクライナ侵攻を我々に予見させるものではなかったはずだが、日露関係がこれまでで最も冷え込むなか、ロシアによる軍事的威嚇は今後さらにエスカレートする恐れがある。しかし、ロシアが威嚇したい相手は日本だけではない。周知のとおり、日本は米国の軍事同盟国であり、日本には沖縄本島を中心に数多くの米軍基地が存在する。それが日本の安全保障を担保しているのだが、ロシアには対立する米国に対して屈するつもりはないという強気の姿勢を示す狙いもあろう。
近年、自衛隊や米軍の優先順位は圧倒的に日本の南方にあり、要は海洋覇権を強める中国に対峙することだった。そして、南方重視によって北方が手薄になっていたことは事実であるが、今後は日本の北方への比重を高める必要性が出てきた。しかし、米国が実際どこまで日本の安全保障に積極的に関与するかは不透明な部分があり、日本の自衛隊や海上保安庁のマンパワーにも限界がある中では、ロシア、中国、北朝鮮という3正面からの対応は極めて難しいものになろう。
■筆者プロフィール :カテナチオ 世界情勢に詳しく、特に米中やロシア、インド太平洋や中東の外交安全保障に詳しい。学会や海外シンクタンクなどで幅広く活躍する。