ロシアによるウクライナ侵攻から2か月となるなか、欧米諸国はロシアへの経済制裁、ウクライナへの軍事支援を強化している。軍事支援が功を奏してか、ウクライナ軍も善戦しているようだ。制裁措置もどんどん追加され、既にモスクワなどロシア各地に点在するアップルやスターバックス、IKEAなどの欧米企業が相次いで営業を停止しており、モスクワ市長は4月18日、ウクライナ侵攻で欧米を中心にロシアへの経済制裁が強化されるなか、モスクワ市内の外国企業で働く20万人あまりが失業する恐れがあると懸念を示した。しかし、日本国内にいるとどうしても欧米日本VSロシアのイメージが先行するが、グローバルな視点からみるとロシアの孤立化は欧米の描くようにいっていないのが実状だ。
米大統領の電話会談拒否したサウジ
たとえば、1つに中東諸国だ。特に、中東の盟主であるサウジアラビアは欧米による対ロシア制裁には懐疑的な姿勢を維持している。トランプ時代、米国とサウジアラビアの関係は極めて良好だったが、バイデン政権の誕生によってその関係は冷え込み始めた。バイデン政権はイラン核合意への復帰を目指し、脱炭素など地球温暖化対策を重視するが、イランと犬猿の仲であるサウジアラビアはイラン核合意復帰をそもそも良く思わず、脱炭素は石油を売りにするサウジアラビアにとってはお節介な話だ。最近もウクライナ侵攻で石油価格が高騰していることで、バイデン政権はサウジに石油増産を求めようと電話会談を打診したが、サウジはそれを拒否した。サウジアラビアはロシアへの経済制裁に加わらず、今日では対米国シェールオイルでロシアとは協調関係にあり、OPECプラスはその証左であろう。実際、サウジアラビアだけでなく、イラクやUAE、イランなど他の中東諸国も対ロ制裁には加わっていない。
対ロ非難避ける東南アジア諸国
また、東南アジア諸国でもシンガポール以外の国々はロシア非難を避けている。近年、米中対立が深まる中、ASEANはその主戦場になりつつあり、ASEAN諸国の中には大国間の揉め事に巻き込まれたくないという強い思惑がある。特に、ラオスやカンボジア、ミャンマーは長年中国から多額の経済支援を受けており、中国が曖昧な態度を堅持する中では対ロ非難に回れないという政治的事情もあろう。一方、インドネシアやマレーシア、フィリピンなどは正に米中の板挟み状態にあり、ロシアを非難する米国、沈黙を守る中国のどちらにも傾きたくないのが本音だろう。これらの国々は政治・安全保障では米国、経済では中国といった難しい立場にある。
以上のように見てくると、プーチン大統領にはまだ政治的余裕があると言える。中国が現在の立ち位置をキープする限り、中国に合わせようとする国々も少なくなく、欧米の経済制裁による効果にも陰りが見えてくる可能性が高い。各国とも自らの国益や利害に基づいて外交を行うので、欧米主導の行動は絶対的なものではない。