未成年の少女たちに対する性的人身取引容疑で2019年に逮捕され、勾留中に獄中死を遂げたジェフリー・エプスタイン。トランプ、クリントンら歴代大統領、エリザベス女王の次男アンドルー王子といった政財界や社交界の大物との華麗なる人脈で知られた大富豪の裏の顔は一大スキャンダルとして世界中を駆けめぐった。
アンドルー王子は昨年1月、王室から公的地位をはく奪されたほか、元交際相手のギレーヌ・マクスウェルは2021年12月に有罪の評決が下されるなど、事件の余波はいまなお収まっていない。
全米ベストセラーのルポルタージュ『ジェフリー・エプスタイン 億万長者の顔をした怪物』(ジュリー・K・ブラウン著/依田光江訳)は、そのエプスタイン事件を白日のもとに晒すきっかけとなったマイアミ・ヘラルド紙の調査報道記者ジュリー・K・ブラウン氏のシリーズ記事を再編したルポルタージュ。
巨万の富をもつ慈善家という顔の裏でエプスタインがいかに平凡な少女たちを操り、巨大なピラミッド型の買春システムを作り上げ搾取していたのか、彼が所有していたカリブ海の孤島では何が行われていたのか、そして不可解な司法取引はなぜ許されたのか。時に身の危険を感じながら真相に迫ってゆく過程は、まさに「事実は小説より奇なり」。
筆者のブラウン氏は、エプスタイン事件を追った2018年のシリーズ記事、“Perversion of Justice(倒錯した正義)”が大きな反響を呼び、米国ペンクラブ賞、ヒルマン賞、ジョージ・ポルク賞ほかを受賞。トランプ政権の労働長官辞任や、連邦政府による再捜査のきっかけとなった。
日本初の書籍となった本書は、権力の腐敗に直面しながらも「真実の力」を信じ、ひたむきに闘ったローカル報道記者の執念、そして社会的弱者救済への正義を感じる真のジャーナリズム本。