今日、安倍晋三元総理が亡くなった事件は、日本国内だけでなく世界各国にも衝撃を与えている。安倍氏が総理として2期9年近く務めた功績は計り知れず、それは弔問に訪れる人が絶えないことからも十分に理解できる。
安倍氏が積み重ねてきた功績は、外交安全保障上、とてつもなく重い。仮に、安倍氏が総理を務めていなかったら、おそらく今日にはない日米関係、その他諸国との外交関係があったと言っても過言ではない。
その最大の功績は、トランプ元大統領との良好な関係の構築・維持だ。2016年、アフターオバマを巡る戦いが米国で激しくなり、秋の大統領選挙の結果トランプ氏が勝利した。当時、日本のアメリカ研究者の間でもトランプ勝利を予想していた人は限りなく少なく、また、政府関係者の間では、過激な発言を繰り返すトランプ氏とどのような日米関係を構築できるのかと不安視する声が根強かった。
しかし、その時も日本の国益を冷静に考え、対トランプで戦略的に動いたのは安倍氏だった。トランプ氏が勝利した後、世界の指導者でトランプ氏に真っ先に会いに行ったのが安倍氏で、就任前にニューヨークにあるトランプタワーを訪れ、そこで良好な日米関係を維持、構築すべく人的交流を図った。こういった努力が功を奏し、トランプ氏は安倍氏への信頼を抱くようになり、安倍氏は日本国内に漂っていたトランプ不安論を払拭することに成功した。
以前から指摘されていたように、トランプ氏はパリ協定やイラン核合意からの脱退などアメリカファースト路線を強め、英仏独など欧州との関係は建国以来最悪にまで冷え込むようになったが、安倍氏はトランプ氏との良好な関係を維持し、外交の世界では、トランプ氏の唯一の親友となった。
当然ながら、トランプ氏の過激な行動や発言に安倍氏が理解を示し、賛成していたわけではない。安倍氏にもトランプ氏の価値観や国家ビジョンに内心は首を振っていたことも多くあったことだろう。しかし、厳しくなる日本周辺の安全保障環境などを考慮し、どうしても良好な日米関係を維持、強化しなければならないという戦略的な狙いでトランプ氏に接近していった。正にそこにあるのは、感情や理性に左右されず、国家の繁栄と平和を戦略的に維持しようとする国家指導者の姿と言えよう。おそらく、これは安倍氏でなければできなかったことだろう。
カテナチオ:世界情勢に詳しく、特に米中やロシア、インド太平洋や中東の外交安全保障に精通している。現在、学会や海外シンクタンクなどで幅広く活躍している。