米自殺防止ホットライン番号が「988」に、5年で相談90%増

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米国で自殺対策の相談用窓口とされてきた「全米自殺防止ライフライン」の10桁の電話番号が、「988」という3桁の番号に移行する。近年の相談件数増加を受け、より覚えやすい番号にすることで利便性を向上させる狙いで、今月16日から全米で運用を開始する。

新たな番号「988」は緊急通報ダイヤル「911」同様のフリーダイヤルで、通話以外にテキストでも相談が可能。移行後も、当面は従来の10桁の番号も並行して運用する。番号移行に伴い、政府が4億3200万ドルの連邦予算を提供するほか、各州が追加予算を投じ、サービスの改善を図る。

CDC・米疾病対策センターによると、全米の自殺件数は2000年から2020年までに30%増加した。全体では2018年をピークに減少しているものの、近年特に子供の自殺率が増える傾向にあるという。新型コロナウイルス感染拡大以降、不安やストレスから自殺を考える人が増加しているという専門家の指摘もあり、同ホットラインを運営する米保健福祉省(HHS)の薬物乱用・精神衛生サービス局と非営利団体「Vibrant Emotional Health」は、番号を短く覚えやすいものにすることで、相談件数が増加すると見込んでいる。

6件に1件つながらず!? ホットライン対応の現状

「全米自殺防止ライフライン」は2005年、1-800-273-TALK(8255) の10桁の番号で開設。近年、特に相談件数が急増しており、2016年から2021年までの5年間で92%増加した。その一方で、各地のコールセンターが対応しきれていない現状がある。ウォール・ストリート・ジャーナルの調査によると、2016年から2021年までに、同ホットラインに920万件の電話が寄せられたが、そのうち約6分の1に当たる150万件が、カウンセラーにつながる前に切れてしまったという。

同ホットラインは、全米約200カ所のコールセンターをネットワークでつなぎ、利用者の電話はまず州内のコールセンターにつながる。州で対応できなかった場合は、全米に13カ所設置されているバックアップセンターに回る仕組み。

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ところが、州のコールセンターで対応できている電話は65%程度で、全体の3~4割がバックアップセンターに回っているのが現状だという。11州では半数以上の電話がバックアップセンターにつながっており、特にイリノイ州では約75%の電話がバックアップセンターに回っている。

ルイジアナ州では、2015年の時点で91%の電話を地元で対応していたが、2021年にはその割合が47%にまで落ち込んだ。同州コールセンターの責任者は、相談件数があまりに多く、対応しきれない分をやむを得ずバックアップセンターに任せていると現状を語った。

ニューヨーク州の保険当局の報告では、以前から急増していたホットラインの利用数が、パンデミックによって加速。2019年は3年前に比べて73%増の13万7,500件を記録し、2020年は対前年13%増の14万2,827件となった。応答率は現在70%で、2018年の45%から大幅に改善している。

ちなみに「Vibrant Emotional Health」の統計によると、ホットラインの平均待ち時間は45秒で、つながる前に電話を切る利用者の平均待ち時間は2分弱だったという。

ホットラインの利用は、自殺願望を和らげ希望を持つことに効果があるとする調査結果もあり、相談して命を救われたとする利用者の声も出ている。

今回の「988」の運用開始に当たり、ジョージア州は全米で最も多い2,000万ドルを投資し、人員面と技術面で体制を強化。30秒以内に電話がつながるよう改善したいとしている。マサチューセッツ州でも、現在13人のスタッフと240人のボランティアが対応しているが、新たに雇用を拡大しサービスの向上を図るとしている。