ロシアによるウクライナ侵攻から来月で早くも半年となるが、プーチン大統領は欧米に屈しないどころか独自の路線を突き進んでいる。
プーチン大統領は7月19日、イランの首都テヘランを訪問し、ライシ大統領とトルコのエルドアン大統領と会談した。なお、プーチン大統領が旧ソ連圏以外の国を訪問するのはウクライナ侵攻後初めて。3者はシリア内戦の終結、ウクライナ産の穀物輸送などの問題で協議し、イラン最高指導者ハメネイ師との会談では、イランによるロシア支持の立場が明らかになった。また、プーチン大統領は「西側によるロシアに対する経済制裁を解除すれば、速やかにウクライナからの穀物輸出再開に合意する用意はある」と述べるなど、欧米に対して強気の姿勢を改めて示した。
このほぼ半年あまり、欧米主導のロシア制裁の範囲は拡大し、マクドナルドやスターバックス、アップルなど世界的企業が相次いでロシアからの撤退を発表し、ロシア経済にとってはダメージが続いている。最近もスウェーデンのカジュアル衣料大手H&Mがロシアで展開してきた事業から完全に撤退する方針を明らかにした。H&Mはロシアがウクライナに侵攻した直後の3月からロシアでの事業を一時停止していたが、現在の状況では事業継続が不可能と判断したようだ。
なぜプーチン大統領は強気の姿勢を維持できるのか。当然ながら、ロシアが権威主義国家であり、プーチン大統領の考え方次第とも主張できるが、やはり“国際政治の中で非欧米世界が拡大している”ことは大きいのだろう。実際、欧米主導のロシア制裁に参加しているのは世界193か国中40か国あまりで、全体で見れば少数なのである。しかも、中国やインド、ブラジルなど新興大国はロシア制裁に参加しないどころか、むしろロシアへ経済的に接近するなど欧米と一線を画している。
プーチン大統領は6月にもブラジルのボルソナロ大統領と電話会談し、エネルギーや農業の分野で関係を強化していくことを確認した。ボルソナロ大統領はウクライナ侵攻したロシアを非難せず、制裁も実施しておらず、ブラジルも中国と似たような立ち位置にある。また、中国税関総署が6月、5月のロシアからの原油輸入量が前年同月比で55パーセント、天然ガスが54パーセントそれぞれ増加したと明らかにしたように、中露間の経済的接近は数字としても表れている。
こういった非欧米世界が国際政治全体の中で拡大すればするほど、プーチン大統領にはさらなる政治的余裕が生まれ、欧米の対抗姿勢は強くなるだろう。「欧米なんて怖くない、やれるものならやってみろ」、プーチン大統領の心の中はこれで満たされている。
■筆者 カテナチオ:世界情勢に詳しく、特に米中やロシア、インド太平洋や中東の外交安全保障に精通している。現在、学会や海外シンクタンクなどで幅広く活躍している。