8月はじめにペロシ米下院議長が台湾を訪問して以降、中国は台湾を包囲するかのような軍事演習を実施するなど軍事的圧力を強化し、台湾を巡る情勢はワンフェーズ緊張の度合いが増したといえる。台湾国防部は8月29日、台湾が実効支配する金門島(中国大陸から数キロの距離にある)の台湾軍基地付近に中国製のドローンが飛来したと明らかにした。中国側の意図は分かっていない。中国が台湾本土へ侵攻する可能性は現在のところ低いが、中国は経済制裁やサイバー攻撃、ドローンなどを使って台湾に圧力を掛けている。
中国が台湾に軍事的圧力を掛ける理由は、当然ながら台湾を不可分の領土と位置づけていることにある。中国にとって台湾は国際問題ではなく、あくまでも内政問題である。しかし、安全保障や軍事面から深掘りすれば、中国には台湾を狙うもう1つ重要な理由がある。
それは、第一列島線の確保だ。2013年6月、新たな中国の指導者となった習近平氏は米国を訪問し、当時のオバマ大統領に「太平洋は中米両大国を受け入れる十分な空間がある」と伝えた。これはハワイを境界に太平洋の東側を米国が、西側を中国が統治しようという考え方で、正に“海洋強国”を目指す習政権の海洋戦略である。そして、中国はそれを成し遂げるため戦略的なラインを打ち出した。中国は、九州から沖縄、台湾からフィリピンにいたる第一列島線、伊豆半島から小笠原諸島、グアムからパプアニューギニアにいたる第二列島線、そして、それらをさらに遠方に展開したハワイからサモアを通り、ニュージーランドにいたる第三列島線をそれぞれ打ち出し、米軍の西太平洋における軍事的影響力を排除していきたい意図がある。
当然ながら、今日まで中国が描くようなシナリオにはなっていない。しかし、西太平洋での影響力を拡大するためにはまずは第一列島線を確保する必要がある。そして、台湾はその第一列島線上に位置しており、中国としては台湾周辺での軍事的支配権を確保し、そこを1つの軍事的要衝として西太平洋へ進出し、米軍に対抗していきたい狙いがある。反対に、米国が台湾防衛を重視する背景には、第一列島線を確保しようとする中国を警戒していることがある。
中国共産党は8月31日までに、5年に1度の共産党大会を10月16日に開催することを明らかにした。ここで習氏の異例の3期目が決定される見込みだが、その後、習氏は国家指導者としてさらに強い中国を内外に示すべく、米中競争でよりいっそう強い態度で臨んでくることが予想される。
■筆者 カテナチオ:世界情勢に詳しく、特に米中やロシア、インド太平洋や中東の外交安全保障に精通している。現在、学会や海外シンクタンクなどで幅広く活躍している。