ロシアが任命したヘルソン州のウラジーミル・サルド知事は18日、テレグラムに投稿した動画で、ウクライナ軍が、ドニエプル川のダムの破壊を計画しており、洪水の危険があると警告を発し、住民を移動させる計画を発表した。
ヘルソン州はロシアが先月30日に編入を宣言した4州のひとつで、クリミアに接している。ウクライナ軍が解放を目指して反撃を強めている。
同日、8日に任命されたばかりの「アルマゲドン将軍」ことセレゲイ・スロビキン総司令官は、就任後初のテレビ出演で、ウクライナの進軍により、ヘルソンエリアの戦況は「緊迫」しており、「難しい決断」もありうると説明した。スロビキン氏はこの中で、「ハイマースロケット砲でアントノフカ橋とカホフカ水力発電所のダム」が攻撃を受け、損傷したと述べつつ、ウクライナ軍が同ダムに対して「大規模なロケット攻撃」を準備している情報があると主張した。
先述のサルド氏は、住民らに「カホフカ水力発電所ダムの破壊計画と、ドニエプル川上流の発電所のカスケードから放たれる水により、領土が洪水に見舞われる危険が差し迫っている」と説明。民間人の死傷者を回避し、軍の任務遂行を妨げるのを防ぐために、民間人は左岸(東側)に「組織的、段階的な方法」で移動させると述べた。無償の宿泊を提供するとしたほか、ロシア本土への移動を希望する住人には、「住宅証明書」を発行すると加えた。
ウクライナ当局者は、ダム破壊の計画を「プロパガンダショー」と否定。ゼレンスキー大統領の首席補佐官、アンドリー・イェルマク氏は、ウクライナ軍は自国の都市を砲撃しておらず、ロシア側の民間人を怖がらせる「原始的な戦術」と一蹴した。
ダム破壊の場合の被害は?
カホフカ水力発電所一帯は、ロシアが侵攻開始直後に占領した地域で、ロシア軍は、ダムの一部を破壊し、2014年のクリミア併合以降制限されていた半島への水の供給を再開させた。
発電所再建に携わる幹部は8月、タス通信の取材で、占領初日からウクライナ軍の砲撃にさらされているとした上で「カホフカ水力発電所のダムに問題が起きれば、ザポリージャ原子力発電所に大きな問題を招く」と主張。「核の大惨事につながる」と警告した。
この一方で、ウクライナ側のヘルソン州地域評議会のセルゲイ・クラン副議長は、ローカルメディアに、発電所は戦略的施設で、ロシア占領軍が損害を与えれば、洪水で多数の集落が水没する危険があると指摘し、国際的な保護下に置くべきと訴えていた。クラン議員は加えて、ロシア軍は、ウクライナ軍が破壊しないことを見越して、意図的に戦略的施設に基地を築いているとも非難した。
なおドニエプル川は両軍に大きな障害であることから、戦争研究所は、ヘルソンのドニエプル川西岸のロシア占領地は、双方にとって地形上重要な部分と指摘している。ロシアにとっては、なんらかの合意により停戦に至った場合でも、同地域を確保しておくことで、改めて攻撃に出ることが容易になる。一方、ウクライナが支配を取り戻すと、ロシアは南西部への地上攻撃が困難となる。南部のムィコラーイウやオデーサといった都市の防衛は、西岸の行方にかかっていると分析している。