ガーランド米司法長官は18日、トランプ前大統領の疑惑を捜査する特別検察官に、戦争犯罪捜査の専門家でもあるジャック・スミス氏を任命した。スミス氏は今後、トランプ氏が2020年の選挙結果を覆そうとした試みと議会襲撃事件との関連や、自宅から押収された機密文書の取り扱いについて捜査し、トランプ氏を刑事訴追するべきかを判断する。
スミス氏の年齢は非公表だが、ベテラン検事として、国内外で約30年の経験を持つ。ニューヨーク・タイムズによると、スミス氏はハーバード・ロースクールを卒業後、1990年代にニューヨーク州の検事として、マンハッタンの検事局でキャリアをスタート。その後、ブルックリンの連邦検事局に移り、捜査を監督する立場として主に公職者の汚職に関する案件を担当した。
2008年から2010年までの間は、オランダ・ハーグの国際刑事裁判所で捜査コーディネーターを務め、戦争犯罪や非人道的行為、殺戮行為などで指名手配された外国政府高官や武装組織の構成員らの捜査を監督した。
2010年にアメリカに帰国し、2015年まで米司法省の公職健全性部門(Public Integrity Section、略称:PIN)のチーフとして、政治家や公職者による贈収賄、選挙法違反などの汚職捜査を率いた。
司法省時代、スミス氏の監督下で起訴に持ち込まれた有名な事件が2つあるが、勝敗は分かれている。2014年、バージニア州のロバート・マクドネル元知事が贈収賄に携わっていたとする事件では、一審で有罪判決が下されたが、のちに連邦最高裁で覆された。一方2013年、リック・レンツィ元下院議員(アリゾナ州選出・共和党)が汚職に関与していたとする事件では、被告は有罪となり禁錮3年の刑が確定した。なお、レンツィ氏は昨年1月、トランプ氏の大統領退任直前に他約50人とともに恩赦されている。
スミス氏が責任者に就任した当時のPINは、故テッド・スティーブンス元上院議員(アラスカ州選出・共和党)の汚職をめぐる捜査で検察側の不正行為が発覚し、信頼が失墜していた時期だった。このため就任後数か月は汚職の疑いのあった政治家らを起訴に持ち込めずに終わったが、それでもスミス氏も部下たちも、諦めることはなかったという。スミス氏は当時、ニューヨーク・タイムズのインタビューで「なぜ問題視されているのかは理解できる」としつつ、「しかし、もし私が怖気づくような人間で『この件を起訴すべきだ、この人物は絶対に有罪だ、でも負けるかもしれない、そうなったら格好悪い』と考えるくらいなら、別の仕事を探す。同業者や過去私と働いた人で、そんな考えを抱く人がいるとは思えない」と心境を語っている。
2015年からは、ナッシュビルにあるテネシー州中部地区連邦検事局で検事補佐を経て検事長代行を務めた。現在はハーグに本部を置く特別法廷で、コソボ紛争の戦争犯罪を捜査する首席検察官を務めている。
今回、特別検察官に任命されたのを受けアメリカに帰国する予定だが、最近自転車事故でけがをしていることから、ひとまずオランダで療養を終えてからの帰国になるという。