オンライン小売店ザッポス(Zappos)創業者のトニー・シェイさん(46)は、火災事故で死亡する数週間前、薬物による幻覚症状で「模擬実験でクリスタルにされる」などと主張し、緊急治療室に運ばれていたことがわかった。地元メディアKLASが裁判資料を元に報じた。
シェイさんは2020年11月18日、コネチカット州のニューロンドンにある交際相手宅の物置で、火災発生後、意識不明の状態で発見された。その1週間後に死亡した。
遺書は残されておらず、遺族やビジネスパートナーが、シェイさんが保有していた5億ドルの遺産を巡り、法廷闘争を繰り広げている。
シェイさんは、2019年から馬の鎮静剤「ケタミン」を服用していた。2020年からは、今まで使用していた薬物の代替として「ホイッペット」(笑気ガス、缶入りの亜酸化窒素)の吸引を開始。1日最大50本のカートリッジを使用していたという。公共の場や会議中に使用することもあった。
火災が起きた日、交際相手と口論した後、物置にホイッペットや毛布を持ち込んでいた。毛布とビニールの一部が燃え、火災に発展したとみられている。
消防署の発表によると、シェイさんは物置にプロパンガスのヒーターやホイッペット・チャージャー、ホイップクリーム・ディスペンサー、マリファナのパイプ、アルコールのボトルを持ち込み、建物の中でろうそくを使用していた。財団側の代理人は、シェイさんが当時「キャンドルと火に対する執着を高めていた」と証言している。
友人らはこの日、物置に閉じこもったシェイさんの様子を10分起きに確認。ドアをノックし、付箋でメモを残すなどしていたという。監視カメラには、自ら煙の出る物置のドアを開ける様子が映っていた。
ウォールストリートジャーナルは事故の前日、ハワイのリハビリ施設に入院する計画を立てていたと伝えている。
シェイさんは2009年、ザッポスをアマゾンに12億ドルで売却。その後もCEOとして経営には携わっていたが、2020年8月に退任していた。ラスベガスに多額の投資を行うなど、衰退化したダウンタウン地区の再活性化に重要な役割を果たしていた。
死亡時点で、シェイさんには2億5000万ドルの債務があることがわかった。「氷の城」やボート・バーの建設計画に3,000万ドルの契約を締結していたが、弁護人は、薬物の乱用により、正しい判断能力を持ち合わせてなかったと主張している。
今年4月、700万ドルの支払いを求め財団を提訴した元財務マネージャーのトニー・リーさんは、シェイさんの弟アンディさんが、依存症に陥った兄を利用するため、薬物を提供し続けていたと主張している。シェイさんは肝硬変を患っていたが、アンディさんはアルコールをすすめていたという。これに対し、アンディさんは、コネチカット州への旅行の最中、セキュリティーチームと協力し、シェイさんからホイッペットを遠ざけようとしていたと反論するなど、双方は真っ向から対立している。