ウクライナの防空システムに新たに加わることになった地対空ミサイルシステム「パトリオット」について、ウクライナ空軍の報道官ユリー・イーナット氏が、どのような状況での使用を想定しているかについて言及した。
ゼレンスキー大統領が米国への電撃訪問を果たした21日、国防総省は追加軍事支援として、パトリオットを含む10億ドル相当の兵器を備蓄から提供すると発表した。同省はこれに加えて、ウクライナ安全保障支援イニシアチブ基金を通じて、8.5億ドル分の兵器を調達するともした。
イーナット氏は、国営TV局のニュース番組で、「もちろんパトリオットはイラン製ドローンに対して使用しない」と説明。「極端なケースではありうるが、現在はIRIS-TとNASAMSの両方があり、これらが Shahedドローンを撃墜している」と加えた。
例外的なケースについて、ドローンがもたらす被害が、パトリオットのコストを上回る場合だと示唆。「Shahedドローンは、巡航ミサイルの10分の1の弾頭を備えているが、脆弱な場所にある非常に重要な目標物に命中した場合、われわれがミサイルを失う場合よりも、大きなダメージをもたらす」と話した上で、「よって、このような複合システムを、Shahedドローンに対して使用する決断が下されれば、そうしたこともある」と語った。
一方、パトリオット配備の大きな目的は「特定の前線で、特定の状況を作り出し、国境から敵の航空機を追い払うことだ」と説明した。
なおパトリオットの運用には訓練に数ヶ月間を要するとされ、ウクライナへの配備がいつになるのか明らかではない。
ロシア軍は10月以降、ウクライナ全域でインフラ設備を狙ったミサイルとドローンによる大規模な爆撃を繰り返している。12月初旬、全土のエネルギーシステムの約半分が破壊されたと報じられたほか、南部の都市オデーサがドローン攻撃により、150万人以上が停電に見舞われたと伝えられている。
パトリオットのコストは?
国防総省は明らかにしていないが、NPRは、当局者の話として今回供与するパトリオットの数量は、システム一組だと伝えている。
システムは基本的に「発射装置1セット」と「コントロールセンター」、「高度なレーダー」で構成される。射程距離は、使用するミサイルによって異なるものの、30Kmから160kmだといい、東西1300km、南北800kmに広がるウクライナの国土全体をカバーするには及ばない。
ニューヨークタイムズは、迎撃ミサイル1発の費用が400万ドル(約5.3億円)、発射装置1台あたり1,000万ドル(13億円)と推定を示した。一方、ワシントンポスト紙は、新品のシステム一組は10億ドル程度と推定しつつ、ウクライナに移管されるものは中古で、評価額も大幅に低いだろうとした。
ロシア軍による使用が確認されているイラン製ドローンは、ミサイルに比べれば極めて廉価で、「Shahed-136」 1機の値段は2万ドル(約260万円)から5万ドル(約660万円)程度とも報じられている。
タイムズは、パトリオット使用は、甚大な損害や人命の損失を伴う空爆などの状況に限定される可能性があると指摘したほか、ウクライナ政府にとって、実用を超えて、米国が支援を強化していることを示す証といった象徴的な意味合いもあるだろうとしている。
なお、タス通信によると、パトリオットの供与について、プーチン大統領は25日、国営テレビのインタビューで「もちろん100%取り除く」と豪語。「パトリオットはかなり時代遅れのシステム」で「対抗手段」が見つかるだろうと話したという。