米国では過去5年間に半数以上の州でスポーツ賭博が合法化され、運営会社の売上は3年間で10倍に拡大し、70億ドル(約9,200億円)に達する見込みだという。専門家は、急速な市場の拡大に対する依存症の増加に警戒感を示している。
米連邦最高裁判所は2018年、スポーツ賭博を禁じた1992年の連邦法「プロフェッショナル&アマチュア・スポーツ保護法」について、連邦政府による州の政策のコントロールを制限するという憲法の原則に反するとし、州にスポーツ賭博の禁止を強要するのは憲法違反にあたると判断した。ニュージャージー州をはじめ、現在33州とワシントンD.C.で合法化されている。
フォーブスによると米国では昨年、最初の11カ月間でスポーツ賭博に使われた金額は830億ドルを超え、運営会社は66億ドルの収益を得た。この収益額は、2018年の15倍に相当するという。今年からモバイル・スポーツ賭博が合法化されたニューヨーク州では、167億ドルが賭けられ、すでに国内最大のスポーツ賭博市場となっている。
アメリカン・ゲーミング協会は、今週末開催されるスーパーボウルに関して、成人の5人に1人、約5,000万人が賭けを楽しむと予想しており、賭け金は昨年の2倍、160億ドルになると見込んでいる。ちなみに違憲判決が出た翌年のスーパーボウルは、成人の10人に1人、約2,270万人が賭けを多なった。
ワシントンポスト紙とメリーランド大学が2022年に実施した世論調査によると、アメリカ人の66%が合法的なスポーツ賭博を支持するなど、世間の見方も変わりつつある。2017年の調査では、55%だった。
デイリー・ファンタジー・スポーツの舞台裏を描いた「Dueling with Kings」の著者で、スポーツジャーナリストのダニエル・バーバリシ氏はThe Hillに対し、賭けは、試合結果だけでなく、得点差や合計ポイントなど、様々な指標で楽しめることから、「賭けをする人々のエンゲージメントは飛び抜けている」と指摘。チームとリーグの所有者もスポーツ賭博を歓迎していると語った。
一方、専門家からは”第二のオピオイド”になるなど、依存者の増加を懸念する声が上がっている。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のティモシー・フォン臨床精神医学教授は、「ギャンブルへの家庭への浸透は、われわれが監視したり研究したりするよりも、より速く、指数関数的に急激に増大している」と指摘。1990年から2000年代にかけて、過剰摂取による死亡者が急増したオピオイド危機と同様に、スポーツ賭博にも政府と業界、民間人、利益を享受する人々という「同じプレーヤーがいる」と説明し、人口の1-1.5%が依存症になるリスクがあると加えた。
ラトガーズ大学ギャンブル研究所のリア・ノワー教授兼所長は、ギャンブルは薬物やアルコールとは「非常に異なる」性質があると説明。酒で酔っ払っていると、家族が気が付くことができるが、ギャンブルは子供と一緒にアニメを見ながら、携帯で賭けを行い、家や車、自身の所有物全てを失うことがあるとし、周囲からは気づかれにくいと問題を語った。
また、アルコールやタバコ、薬物などは連邦政府によって厳しく規制されている一方、スポーツ賭博業界の監督は、合法化を許可した各州に一任されており、「連邦政府のプレゼンスが全くないことが、最大の問題」とも指摘した。
ニューヨークタイムズは昨年、ギャンブルの運営会社のプロモーションに対し、制限を課す州はほとんど存在しないと調査結果を報じた。これらの企業は、消費者保護を提供していないことないと問題点を指摘し、州も「無関係な第3者ではない」と非難している。