パンデミックに伴うリモートワークの普及により通勤客が激減したニューヨーク・マンハッタン。これによって、オフィスワーカーが街で支出する総額が、パンデミック前に比べて100億ドル以上減少していることが、米経済専門メディア、ブルームバーグの分析で明らかになった。
分析結果はブルームバーグがスタンフォード大学の研究データをもとに割り出したもの。それによると、マンハッタンの労働者のオフィス出社日数はコロナ禍以前と比べて約30%減少。これに伴い食事やエンターテインメント、ショッピングなどの消費も激減し、インフレを考慮した平均的なオフィスワーカーの支出額は、平均4,700ドル(約62万円)減少した。年間で総額124億ドル(約1兆6,500億円)が失われた計算になるという。
支出の減少は他の都市に比べて際立っており、サンフランシスコは3,040ドル、シカゴでは2,387ドルだった。
124億ドルの損失は、マンハッタンの経済を支えるレストランや小売、その他のビジネスの売り上げ縮小を招く。これに加え、オフィスビルの資産価値の減少、公共交通機関の財政悪化など、勤務スタイルの変化は、市の税収にとって現実的な脅威となりつつある。市のブラッド・ランダー会計監査官は「ニューヨーク市の所得税が少なければ、地下鉄の維持や学校への投資、街の安全や清潔さなど、本当に大切なことに十分な価値を見出すのは難しい」と、悪循環に陥る可能性に警戒を示した。
一方、マンハッタン以外の4つの行政区など周辺地域では、明るい兆しもある。
ブルックリンとクイーンズ、ブロンクス、スタテンアイランドの4地域の客足は、2022年末までにパンデミック前と比較し85%回復した(マンハッタンは78%)。飲食業に著しい変化がみられ、Squareが集計するデータによると、2022年第4四半期、ブルックリンでは取引が2019年に比べて48%増加した。一方、マンハッタンでは18%だった。両者の成長率は、パンデミック以前は同じ割合だったという。
またマスターカードのデータによると、10月の月曜日の平均小売支出は、マンハッタンが2019年の同時期からわずか2%増加したのに対し、ブロンクスでは28%、クイーンズでは21%、ブルックリンでは18%増加した。
オフィスに労働者戻らないなら住居に
マンハッタンの回復の遅れにより、労働者のオフィス復帰を訴えてきたエリック・アダムス市長は異なる対応を迫られている。
アダムス氏は先月、市主導のタスクフォースの助言として、商業・オフィスから住居スペースへの転換を容易にするため、州と市両方のゾーニングの要件を緩和する具体策をまとめた11の提言を発表。対象となる面積は、フィラデルフィアのオフィススペース全体に匹敵する1億3,600スクエアフィートで、実現することによって最大で2万戸、4万人分の居住スペースを創り出すことが可能だとしている。