オーストラリアのシドニー大学は2月10日、新型コロナウイルスを捕えて、感染力を奪い、隔離して、感染を防ぐタンパク質を発見したと発表した。今回発見されたタンパク質は「LRRC15(the leucine-rich repeat-containing protein 15)」と呼ばれるもので、肺の線維芽細胞から発見された。
新型コロナウイルスは、スパイクタンパク質を使って、細胞の表面に突き出している受容体と呼ばれるタンパク質に接着し、そこから細胞内に侵入する。
接着する受容体は決まっていて、ACE2と呼ばれる受容体だ。肺の細胞などにたくさん突き出している。そのため、新型コロナウイルスは肺などでしばしば重篤な症状を引き起こす。
研究チームが今回発見したLRRC15は、ACE2と同じ受容体の1種だが、ACE2ではない。ところが面白いことに新型コロナウイルスのスパイクタンパク質が接着するのだ。すると、このLRRC15は、新型コロナウイルスを固定し、包み込んで感染力を奪いつつ、感染の標的となっている細胞から引き離す。こうして、新型コロナウイルスの標的とする細胞への感染が防がれるというわけだ。
研究に加わったリピン・ルー博士は「ウイルスのスパイクに付着して、標的細胞から引き離すという点で、分子のマジックテープのような働きをすると考えている」と話した。
また研究チームを率いたグレッグ・ニーリー教授は「免疫学者として、これまで知られてこなかった、このような自然免役受容体が肺に存在し、ウイルスからの感染を防ぎ、ウイルスをコントロールしていることは、クレイジーなくらい興味深い」と語っている。
研究チームによれば、今回発見されたLRRC15は健康な肺の組織ではそう多く見られないが、新型コロナウイルスに感染した肺ではより多くみられるようになるという。このことから、研究チームは、このLRRC15は、私達の体の新型コロナウイルスの感染から肺を守るための免疫反応の1つであるとしている。肺の細胞から新型コロナウイルスを物理的に引き離すことで、新型コロナウイルスの肺の細胞への感染を防ぐというわけだ。研究チームはこのメカニズムをウイルス感染と戦うためのバリアと表現している。
現在、研究チームでは、今回発見されたLRRC15を使った新型コロナウイルス対策のための戦略を2つ考えている。1つは、鼻を対象とした予防的措置に関する戦略だ。そして、もう1つは、重症化した場合の肺を対象とした治療戦略だ。
研究チームはまた、今回の研究成果は、新型コロナウイルスなどの感染を予防するための新しい薬の開発につながる非常に有望な道を切り開くものだとしている。
(翻訳・執筆/飯銅重幸)