4日に公表された起訴状で、トランプ前大統領はビジネス記録を改ざんしたことに関し、34の重罪で起訴されたことが明らかになった。
ニューヨーク州では、ビジネス記録の改ざんは通常は軽罪として扱われるが、マンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事は同日の会見で、「欺く意図があり、もう一つの犯罪を隠蔽する意図」がある場合は重罪にあたるとした上で、34件の記録の改ざんは「その他の犯罪をもみ消す」ために行われたと主張した。
「その他の犯罪」について、2016年の大統領選期間中にトランプ氏を勝たせるために画策・実行された、不利な情報を買取る手法(キャッチ・アンド・キル)を挙げ、これを通じて、違法な方法で候補者を支援することを犯罪とするニューヨーク州の選挙法に抵触したと指摘。さらに連邦の選挙法に定められた寄付金の上限額を超え、連邦法にも違反したと主張した。
キャッチ・アンド・キル(Catch and Kill)とは?
特定の個人の有害な情報が公になるのを防ぐため、タブロイド紙などが情報保持者と秘密保持契約を結ぶことを条件に、暴露話の独占権を買取る手法。買い取りは抑圧することが目的なので、掲載されることはない。
検察の主張によると、2015年8月、トランプ氏は、弁護士だったマイケル・コーエン氏とタブロイド誌「ナショナル・エンクワイアラー」を傘下に持つ出版企業アメリカン・メディアInc.(AMI)のデビッド・ペッカー元会長をトランプタワーに集めて協議を行った。この中で、AMIがトランプ氏にとって不利な情報を探して、コーエン氏に連絡するという、キャンペーンの「目と耳」として機能することで合意にいたった。AMIは、トランプ氏の対抗馬にとって不利な記事を掲載することにも同意していたという。
ポルノ女優だけじゃなかったキャッチ・アンド・キル
今回検察が罪としたのは、ポルノ女優ストーミー・ダニエルズ氏への口止め料に関係するものだが、検察は公訴事実に、さらに2人の人物にキャッチ・アンド・キルが実行されたと指摘した。
トランプタワーのドアマン
それによると、2015年後半、AMIはトランプタワーのドアマンが、トランプ氏に隠し子がいる話を売りつけようとしていることを察知。交渉の末、3万ドルで独占権を買い取ることで合意に至った。
この話はあとから虚偽だと判明するのだが、AMIのデビッド・ペッカー氏は、十分な調査をすることなく、マイケル・コーエン氏との契約を理由に、幹部に購入を指示した。嘘だと発覚した後、契約を解除しようとしたが、コーエン氏は、大統領選が終わるまで継続するよう求め、ペッカー氏もこれに従った。
元プレイボーイモデル
マイケル・コーエン氏が2018年に有罪判決を受けた中に含まれたものだが、2016年大統領選を5ヶ月後に控えた6月、元プレイボーイのモデルのカレン・マクドゥーガル氏が、トランプ氏との不倫話を売ろうとしているとして、AMIの編集長からコーエン氏に連絡が入った。両者の間で協議を繰り返した後、AMIのトップ、ペッカー氏は、口止め料15万ドルを支払い、マクドゥーガル氏から不倫話を買い取った。条件には、口外しないことと、マクドゥーガル氏を雑誌の表紙記事で取り扱うといったおまけもつけていた。
支払いに際して、ペッカー氏はトランプ氏とコーエン氏の双方と協議を行なっており、トランプ氏かトランプ氏の企業を通じて、AMIに払い戻すことになった。
コーエン氏の裁判が取り沙汰された2018年、トランプ氏とコーエン氏がこの払い戻しに関して協議する記録テープがメディアにリークされ、衝撃を持って報じられた。この中でコーエン氏は、トランプオーガニゼーションの財務トップに相談をしたとした上で、自分がペーパーカンパニーを作って、そこからAMIに払い戻す案を示した。
その後、ペッカー氏は、暴露話の権利をコーエン氏の新会社に12万5,000ドルで譲渡することで、一部の払い戻しを受けることに同意した。ただし、この取引は最終的に実現せずに終わった。
なお、マクドゥーガル氏の話では、トランプ氏とは2006年6月、トランプ氏の番組の打ち上げで出会った。不倫関係は2007年4月まで続いた。交際時期は、後述するストーミー・ダニエルズ氏がトランプ氏と関係を持った時期と重なっている。
ストーミー・ダニエルズ
ポルノスターのダニエルズ氏が、不倫関係の暴露を望んでいるとの話が舞い込んだのは、選挙を目前に控えた10月のことだった。AMIの編集者から連絡を受けたコーエン氏は、ダニエルズ氏の弁護士と接触。口止め料として13万ドルを提示された。
なお、検察は、トランプ氏は、選挙が終われば明るみにされても関係なく、支払いを避けることも可能と考え、コーエン氏に支払いを遅らせるよう指示していたと指摘。口止め料が選挙に影響を及ぼす目的だった点を強調している。
トランプ氏は支払いを避けたがったが、ダニエルズ氏側のプレッシャーにより、コーエン氏に話を進めるよう指示。トランプ氏とコーエン氏、トランプ・オーガニゼーションの財務責任者、アレン・ワイゼルバーグ氏を交えた協議の末、コーエン氏が、後から払い戻しを受けることで、支払うことに同意した。コーエン氏は、再度ペーパーカンパニーを設立し、選挙目前の10月27日に、ダニエルズ氏の弁護士に約束の金を払い込んだ。
ダニエルズ氏は、2006年7月にカリフォルニアのタホ湖のリゾートで開催されたゴルフトーナメントでトランプ氏と出会い、その晩にベッドインしたと主張している。このトーナメントには、マクドゥーガル氏も参加していた。
トランプ氏は2006年当時、2人以外にも複数の女性と関係を持っていたとの噂がある。メラニア夫人と生後間もない息子のバロンくんを横目に、60歳を目前に控え脂の乗ったトランプ氏は、派手な生活を送っていたようだ。
なお、マンハッタンの訴訟は、トランプ氏が初めて起訴されるケースとなったわけだが、ブラッグ検事が、有罪を勝ち取れるかについて、否定的な意見も多い。連邦政府の候補者を、ニューヨークの選挙法に基づいて重罪を立証できるかといった点や、これとは別に、連邦犯罪を犯す意図があったと主張する場合も、トランプ氏が連邦選挙法に対する違法性を問われた判決はなく、裁判官を納得させられるか疑問だとの指摘がある。