アメフトの頂点を決める第58回スーパーボウルが11日、ラスベガスで開催される。国民の半数近くが視聴する全米最大のスポーツイベントとされ、試合に加えて豪華アーティストによるハーフタイムショー、国歌斉唱といったパフォーマンスにも注目が集まる。
今年のハーフタイムショーは、グラミー賞を8回受賞している歌手アッシャーがヘッドライナーを務める。星条旗 (The Star-Spangled Banner)は、カントリーミュージックのアイコン、グラミー賞に3度輝いたリーバ・マッキンタイアが担当する。
CBSが試合を前に発表した国歌斉唱の歴代ランキングによると、3位は2004年のビヨンセのパフォーマンスで、2位は2006年のアレサ・フランクリンとアーロン・ネヴィル、ピアノにドクター・ジョンといったソウル、ブルース色溢れる演奏、1位に1991年のホイットニー・ヒューストンが選ばれた。ホイットニーのパフォーマンスについて、ボーカルとその安定性は他を寄せ付けず、NFL最大のステージでこれを上回る「星条旗」の演奏は今後もないだろうと評している。
当時27歳だったホイットニーは、史上初めてBillboard Hot 100でシングルが7枚連続で1位を獲得するなど、キャリアの頂点にあった。翌年にはケビン・コスナーと共演した映画『ボディガード』(1992)が公開され、主題歌「オールウェイズ・ラヴ・ユー」は14週連続一位の偉業を成し遂げる。
第25回目となる試合が開催されたのは湾岸戦争突入からわずか10日後で、会場には愛国的なムードが漂っていたという。Todayによると、ホイットニーは2000年に発売したベストアルバムに伴うインタビューで「当時は湾岸戦争の最中だった。 私たちの国にとって激しい時代であり、 私たちの娘や息子の多くが海外で戦っていた。 スタジアムで恐怖、希望、激しさ、祈りが高まっているのが見えた」と振り返っている。
なお、パフォーマンス中のホイットニーのマイクは切られており、スタジアムやテレビに流れたのは事前録音された音声だった。これが後に物議を醸すことにもなるが、長年ホイットニーの音楽ディレクターを務めたリッキー・マイナーは「群衆の音が押し寄せるのをリハーサルする方法はない。最初の音がどこから始まるのかわからない」と、必要に迫られての判断だと明かしている。
スーパーボウルを巨大イベントに仕立てた立役者とされるジム・スティーグ氏によると、1月初旬にフロリダオーケストラによる演奏が収録され、その約一週間後にロサンゼルスでホイットニーのボーカルトラックが録音された。同氏は後に、ボーカルテイクについて「驚くことに、彼(マイナー)が言うように、一発で録り終えた」と明かしている。
録音を聞いたNFLの幹部は当初アレンジに難色を示したという。国歌は本来3拍子だが、ホイットニーとマイナー、ベーシストでアレンジャーのジョン・クレイトンが手がけたアレンジは4拍子に変更され、テンポも落としていた。関係者によると、NFL側は観客から不満の声が上がるのを恐れていたという。スティーグ氏と父親でマネージャーだったジョン・ヒューストン氏との間で再録の可能性について話し合いが持たれたが、最終的に録り直しは行われなかった。なお、マーヴィン・ゲイは他界する前年の1983年、NBAのオールスターゲームで4拍子版の国歌を歌っており、ホイットニーはこれを気に入っていたという。
ホイットニーのパフォーマンスは大反響を呼び、試合から3日後、所属先のアリスタ・レコードはカセットとVHSで発売することを決定。収益を戦争関連の慈善団体に寄付すると発表した。