トランプ前大統領は、11日にニュージャージー州で開いた選挙集会で、当選した場合、就任初日に不法移民に対する「米国史上最大の国外追放作戦」を実施すると宣言するなど、移民政策をめぐる厳格な姿勢を繰り返し強調した。
忙しい裁判の合間を縫ってトランプ氏が訪れたのは、ニュージャージー州南端の都市ワイルドウッドで、ニューヨークポスト紙が市当局者の推計として報じたところによると、同州の政治集会として記録的な8万人~10万人の聴衆が参加した。ニュージャージー州は民主党寄りで、2020年大統領選ではバイデン氏がトランプ氏に16ポイントの大差で勝利しているが、ワイルドウッドのあるケープ・メイ郡ではトランプ票がバイデン氏を上回っている。
演説中盤、トランプ氏は2016年の大統領選からお気に入りの『蛇』の詩を朗読した。
詩は、凍った蛇を家に連れ帰って手厚く介抱した女性が、息を吹き返した蛇に噛まれて死亡するという内容。シカゴの黒人活動家でソウル歌手オスカー・ブラウンJrによる1963年の作品で、本来不法移民とは無関係だが、トランプ氏はこれを不法移民と犯罪の問題の文脈に置き換え、感情たっぷりに読み上げ、「これは私たちの国ではないか」と聴衆に呼びかけた。
さらに、ホワイトハウスに戻った暁には「略奪とレイプ、殺戮、郊外の都市と町への破壊を止める」と主張。「彼らは君たちの郊外の都市や町を破壊している。われわれはニューアークやフィラデルフィアといった聖域都市を封鎖する。犯罪者をこれらの都市に入れない。不法滞在の犯罪者を君たちのストリートに解放させない」と続け、「連邦取締官の大部分を移民取締に移動させて、初日にアメリカの歴史上最大の国外追放作戦を実施する」と語った。
レクター博士を称賛
トランプ氏はまた、世界中の刑務所人口が減少しているのは、米国に犯罪者を送り込んでいるからだと主張。根拠は不明だが、「彼らは刑務所を空にしてアメリカに送っている。精神病院を空にしてアメリカに送り込んでいる」と述べた。
その上で、「羊たちの沈黙を見たものはいるか」と切り出し、「偉大な故ハンニバル・レクター、彼は素晴らしい男だ」と突然称賛した。「最後のシーンを覚えているか。悪いが友人との夕食だと言って、哀れな博士が通りかかるんだ」と映画を振り返り、「おめでとう今は亡き偉大なるハンニバル・レクター。われわれの国が望まない人々がわれわれの国に解放されている」と加えた。
トランプ氏が言及した最終シーンでは、脱獄をはかったアンソニー・ホプキンス演じる殺人鬼レクター博士が、バハマから電話をかけ、ジョディ・フォスター演じるFBIの研修生に古い友人と夕食に出かけると告げる。電話を切った直後、自身が収監された精神病施設のチルトン博士が通りかかり、さらなる犯行を予感させて幕を閉じる。
恐怖を煽ろうとするあまりか、単なる勘違いか不明だが、『羊たちの沈黙』はフィクションで、レクター博士は実在しない。原作者のトマス・ハリスは小説の発表から25年後、ジャーナリスト時代にメキシコの刑務所で出会った医師で囚人のサラザールと呼ばれる人物が発想の源になったと明かしている。