今月10日に開かれた初のテレビ討論会でトランプ氏を打ち負かし、その直後に国民的スター、テイラー・スウィフトによる支持表明まで獲得したカマラ・ハリス副大統領だが、現在、勢いの失速が指摘されている。ニューヨークタイムズが集計する現時点における全国平均の支持率は、10日時点と同一の49%(ハリス)対 47%(トランプ)となっている。
この背景について、ロサンゼルスタイムズのコラムニスト、マーク・バラバク氏は、有権者のハリス氏に対する「リベラルすぎる」との認識が「最大の弱点」になっていると指摘。それは2020年大統領選予備選の「誤算」が引き起こしたものとした。
ハリス氏は当時、予備選の出馬にあたり、党内左派のイメージを強く打ち出した。これにはフラッキングの禁止や単一支払者医療保険制度の支持、不法移民の取り締まり機関の予算削減、拘留中の移民のうち、トランスジェンダーの人々への性別適合手術の提供が含まれる。
しかしながら、ハリス氏は元来、サンフランシスコ地区検事やカリフォルニア州の司法長官といった経歴から想像されるほどリベラルではなかった。ハリス氏の伝記本「Kamala’s Way: An American Life」の著者、ダン・モライン氏は、バラバク氏の取材に、「彼女は中道左派だ」と説明。サンフランシスコでも州でも、立候補した時の「彼女は検察官だ」と述べ、「概して、検察官はありふれた民主党員よりも保守的だ」と語った。
2020年の予備選では、左派として立場を固めざるをえない事情があった。
長年ハリス氏の政治サークルに属しているという人物によると、当時、指名獲得の道は左派として名乗り出て、バーニー・サンダース上院議員やエリザベス・ウォーレン上院議員といった進歩主義の象徴とされる対抗馬を出し抜くしか方法がないとの認識があったという。
ところがパンデミックで事情が一変。パニックに陥った有権者の注目は中道派のバイデンに向けられた。
同人物は、ハリス氏は「本来の自分ではない何かになろうとしていた」と振り返り、「結局、4年後に重荷としかならないような立場を採用してしまった」と語っている。
ABCニュースが討論会後に実施した世論調査によると、42%がトランプ氏を保守的すぎると評価したのに対して、ハリス氏をリベラルすぎると評価する人は47%に上った。トランプ氏は討論会で負けはしたものの、ハリス氏を「リベラルすぎる」候補者として描くのに一定の成功を収めた。
ハリス氏は現在、政策を中道にシフトし、検察官としてのキャリアを有罪判決を受けたトランプ氏の経歴と対比するなど、「法と秩序」の擁護者であることをアピールしている。
なお、自身の立場の一部が変わったことを認めているものの、「私の価値観は変わっていない」と主張している。
バラバク氏は「有権者がハリス氏の立場や、ハリス氏が大切にしていると主張する価値観をどれだけ堅持するのか疑問に思うのは当然」と指摘。政治的便宜によって立場を変える政治家の振る舞いは「”汝の心に正直であれ”を思い出させる」と、シェイクスピアのハムレットのセリフに触れ、「これは人生にとって良い処方箋だ。そして政治にとっても」と締め括った。