報道機関各社が発表する「当選確実」は、非公式にも関わらず選挙戦に絶大な影響をもたらす。全米で最多視聴者数を誇るFoxニュースの発表は最も注目され、2020年大統領選では、ケーブルテレビ史上最多の1,370 万人が当日の速報を見守った。
その年は他社に先駆けて、激戦州アリゾナでバイデン氏の当確を出したことが話題となった。アリゾナはトランプ陣営にとって最重要州の一つで、この発表にトランプ氏は激怒したとも伝えられている。義理の息子ジャレッド・クシュナー氏を通じ、局に抗議したという。
クシュナー氏は自身の回顧録「Breaking History」で、アリゾナ州の「衝撃的な予測は、我々の勢いに突如終結をもたらした」と振り返っている。Foxニュースのオーナー、ルパート・マードック氏は電話越しに「数字は完璧だ。接戦でさえない」と告げたという。
マイケル・ウォルフ氏の著書「Landslide」によると、ディシジョン・デスクがマードック氏の長男ラクラン氏にアリゾナ州のバイデン勝利の連絡が入ったのは午後11時ごろだった。ラクラン氏が父親にその旨を告げると、マードック氏からは「ヤツをぶっ潰せ」(F**K him)とゴーサインが返ってきた。(Foxニュースの広報担当者は、「完全に虚偽」と内容を否定している)
バイデン氏はアリゾナ州で約1万票差で勝利した。
ニューヨークタイムズによると、Foxが他社より早く決定を下せたのは、2016年大統領選後に開発した「最先端のシステム」によるものだという。2018年中間選挙では、民主党の下院勝利を真っ先に報じた。
ディシジョン・デスクを率いるのは、外部コンサルタントのアーロン・ミシュキン氏(69)で、2008年大統領選から同部門のディレクターを務めている。
HBOの政治ドラマ『メディア王』(Succession)のエピソード「America Decides」に登場するディシジョン・デスクのトップ、ダーウィンのモデルになったと言われている。同エピソードでは、大統領選の夜、経営陣から無理難題を押し付けられる報道局のカオスぶりが描かれれいる。
なお、ミシュキン氏は先月、Politicoのインタビューで、ドラマは見ていないと述べつつ、「視聴者をハッピーにさせたい」という幹部からのプレッシャーは感じていないと語っている。
同氏によると、Foxニュースは過去の報道や選挙前の世論調査に加え、全国世論調査センターと共同で実施する50州の有権者調査をもとに予測を出すという。「Fox News Voter Analysis」と名付けられたシステムは、期日前投票と選挙当日の投票、郵便による不在者投票などの多様な投票形式を一括で管理でき、これらに、実際の投票数や、各州から報告される投票種別のモデルを組み合わせ、勝者を決定する。
前回の選挙では、両党の候補者間で、期日前投票数と当日の投票数に「大きな偏り」があったが、共和党は今回、有権者が望む形式で投票するよう促しており、4年前より「はるかにうまくやっている」と語った。
今年の選挙は「接戦になるのは確実」だと指摘。激戦地区ペンシルベニア州の結果が判明するのは、土曜日(9日)になる可能性が高いという。トランプ氏が支持率を伸ばしている調査もあれば、「下がっている感覚もある」と述べつつ、「実際の問題はトランプ氏に何が起こるか。今回の選挙でいつも感じていたことだが、誰が対抗馬というより、すべてはトランプ次第だ」と語った。