国家をまたぐ組織犯罪や汚職を暴くことに特化した世界最大の調査報道組織、OCCRP(組織犯罪・汚職報道ブロジェクト)の最大の資金提供元が米国政府であることがわかった。ドロップサイトニュースが、イタリアやフランス、ギリシャの報道機関との共同調査により明らかにした。
NGOである同組織は本部をアムステルダムに置く世界最大の調査ジャーナリストネットワークとされる。60カ国に総勢200人のスタッフを配し、現地の記者らのハブとして機能している。これまでにパナマ文書やパンドラ文書といった政治家やエリート、起業幹部の不正追求につながる膨大な機密文書の入手や暴露に成功している。ルディ・ジュリアーニ氏のウクライナにおける政治的な活動を暴露した記事は、トランプ氏の一回目の弾劾訴追へとつながった内部告発文書に複数回引用されていた。
ドロップサイトの調査では、2014年から2023年の間、米政府はOCCRPに実際が支出した資金の52%を提供していたことが判明した。2008年以降に提供した総額は4,700万ドル(約700億円)に上っていた。なお、米政府内で最大の資金提供者は国際開発庁だった。
なお、OCCRPのウェブサイトにある寄付者リストには、国務省と並んでジョージ・ソロス氏のオープンソサイエティ財団やロックフェラー兄弟財団といった名も並んでいる。
ドロップサイトはさらに、OCCRPは、国連民主主義基金からの助成金によりスタートしたと説明しているにもかかわらず、実際のところOCCRPの創設を可能にした数百万ドルのスタート資金は国務省の国際麻薬・法執行局(INL)から提供されたものだったと報じている。
この報道に対して、OCCRP の理事会は声明で、米国が主要な資金提供者であることを認める一方、米国以外では政府によるジャーナリズムの支援は珍しくなく、設立前に徹底的に議論された問題であると説明。共同創設者で代表のドリュー・サリバン氏は、OCCRPのジャーナリズムを米政府がコントロールしてきたという発想には根拠がなく、「当てこすりと誤解、非難」でしかないと反論した。また、OCCRP側は「編集上のファイアウォール」があるとして報道活動への影響を否定した。
ただし、米政府との関係は単なる資金提供者と独立した報道機関とは言い切れない可能性がある。
米政府は資金を提供する代わりに、OCCRPの上級編集スタッフを含む上級職員や「年次作業計画」を拒否する権限を有しているという。
また、「OCCRPの記事に基づいて組織的に刑事捜査や制裁手続きを誘発しようとするプログラム」である世界反汚職コンソーシアム(GACC)は、2016年に米国務省の提案募集をOCCRPが勝ち取った結果として生まれたものだった。米国はGACCの最大の寄付者であり、同プログラム絡みでこれまでにOCCRPに1,080万ドルを提供している。
GACCの活動は大きく二つに分類され、1つ目は「OCCRPの記事に基づいて、司法捜査と制裁手続き、市民社会の動員を誘発すること」であり、2つ目は「各国に反汚職およびマネーロンダリング防止に関する法の強化を働きかけること」とされる。
OCCRPが2021年に米政府の要求により作成したGACCの評価報告書によると、「現実世界への影響」として特定された228事例のうち、中南米を含む南北アメリカに関するものはわずか11件だった。
人的交流の側面では、国務省で汚職防止顧問を務めていた高官が、OCCRPに「グローバルパートナーシップおよび政策担当責任者」として採用され、その後再び国務省に戻って制裁手続きの担当部門で働いているという例もあった。
OCCRPの有用性は政府高官も言明しているところであり、国務省のマイケル・ヘニング氏は、ドイツの公共放送NDRの取材に対して、単に法執行機関を使って犯罪を暴くのではなく、ジャーナリストに資金を提供する理由について、政府関係者よりも情報源から協力を引き出せる可能性が高くなるとの考えを語った。
ジャーナリストや報道機関の反応は様々で、独立したジャーナリズム活動に影響はないと擁護する声もある。一方、NDRは独自調査を通じて米政府の資金提供の規模を知り、OCCRPとの協力を一時停止することを決定した。ニューヨークタイムズの広報担当者は、資金提供の性質を同社に明らかにしていないと答えている。
OCCRPの元理事で、1999年公開の映画『ザ・インサイダー』でアル・パチーノが演じた著名なジャーナリスト、ローウェル・バーグマン氏は、政府との繋がりを知って2014年に理事職を退任したいた。当時、バーグマン氏はサリバン氏らに対して懸念を伝えていたという。
匿名を条件にドロップサイトの取材に応じたあるジャーナリストは、OCCRPは米政府に有用な情報提供する必要はなく、米国外で活動する「クリーンハンド」の集団であるとする一方、「しかし、それは常に他の人々の汚職についてだ。反汚職関連の仕事で米政府から支払いを受けていれば、飼い主の手を噛めば資金が止められることはわかっている」と限界を語った。また同人物は、批判者はアメリカの「ソフトパワーの本質」を理解していないとも主張。「米政府から直接資金を受け取りたくなくても、周囲を見渡せば、ほぼすべての主要な慈善資金提供者が何らかの取り組みで彼らと提携している」と述べ、「実のところ、一部の報道機関への影響がどれほど深いのかは分からない」と語った。