映画『旅するジーンズと16歳の夏』やTVドラマ『ゴシップガール』の出演で知られる女優ブレイク・ライブリーは、20日にカリフォルニア州公民権局に提出した訴状で、今夏公開の映画『It Ends with Us』(邦題:ふたりで終わらせる)の制作過程において共演者や製作会社の上層部から性的嫌がらせを受けたと主張するとともに、自身の名誉失墜を狙った「ソーシャルマニピュレーション」活動によって、名声を傷つけられたと申し立てた。
映画『ふたりで終わらせる』は、Wayfarer Studiosが製作し、同社の共同創設者で俳優のジャスティン・バルドーニが監督、共演している。作品は2023年5月に撮影を開始し、脚本家組合のストによる一時的な中断を経て、当初の予定を延期し8月に米国で公開された。バルドーニは、#MeToo 運動に関連する問題を取り上げた著書「Man Enough: Undefining My Masculinity」(2021 年)や共同司会を務めるポッドキャスト『Man Enough』を通じて、ハリウッドにおける#MeToo運動の擁護者としての地位を築いてきた。
訴状によると、バルドーニおよびWayfarerは、ヌードやラブシーンを撮影する際に、俳優の尊厳や心身の安全を保護するための事前通知や同意書を義務付ける組合の規則に繰り返し違反した。
性的描写のシーンを監督する「インティマシー・コーディネーター」不在の下、バルドーニはキスシーンを何度も撮影するよう要求し、事前通知や同意なしに即興でライブリーの下唇を噛んだり吸ったりした。また、台本になかったオルガズムのシーンを加えようとし、それを拒絶されると、ライブリーに夫との性生活について「押しつけがましく」尋ねた。出産シーンの撮影に際して、事前の話し合いなく全裸を装うよう要求した挙句、立ち会いを必要なスタッフのみに限定するといった現場の安全対策を怠り、Wayfarerの重役の入室を許したり、「親友」を産婦人科医役を起用したりするなどした。このほか、ライブリーの前で性的な会話をしたり、「性的対象」として扱うような発言や年齢や体重を批判するなどした。
さらに、友人でWayfarerのCEO、ジェイミー・ヒースとともに、ライブリーが着替えや授乳中のメイクアップトレイラーに入り込んでプライバシーを侵害するなど、不適切行為の数々が記されている。
労組のストによる中断後、ライブリー側は撮影の再開を前に、Wayfarer側に一連の問題への対応を要求。両者の間で、インティマシー・コーディネーターを常駐させることや台本にない演技の要求を禁止することなどを含む、17条からなる同意書が交わされた。これには「懸念を表明したアーティストに対して、いかなる種類の報復も行われない」という内容も含まれた。
ライブリー側の主張によると、バルドーニらはこうした取り決めにも関わらず、醜聞が公にされる危険を見越してライブリーの評判を「破壊」する「多層的」な活動に従事した。これには、危機管理の専門家を雇い、自ら「ソーシャルマニピュレーション」と呼ぶところのSNSやメディアのストーリーをコントロールする活動が含まれていた。
バルドーニらに協力したクライシスマネジメントの専門家、メリッサ・ネイサンは、ジョニー・デップとアンバー・ハードの名誉毀損訴訟に際してデップの代理人として関与するなど危機管理のベテランとして知られる。同氏は今年The Agency Group PR(TAG)を設立した。ハリウッドレポーターは6月の記事で、同社のデジタル部門について、SNSやオンラインプラットフォーム全体にわたる迅速な危機評価と対応に焦点を置いた”フルスケールのデジタルチーム”を構築していると特筆している。
ネイサンはWayfarerに提示した「シナリオプランニング」と題した計画書で、ライブリーが不利な話を公にすることを先取りして実施すべき推奨事項や「主要なメッセージポイント」を列挙。ライブリーが現場で自分の思い通りに行くよう、夫のライアン・レイノルズを巻き込んでバルドーニとの間に「力の不均衡」を生み出したといった主張や、ライブリーは業界で評判が悪く他の主演作でも問題を起こしたといった噂、映画の権利を強引に買おうとする明白な動機があるといったネガティブな主張を推進する戦略を提示した。
このほか訴状に添付されたスクリーンショットでは、広報担当者とネイサンの間でライブリーを「沈める」といった会話が交わされたほか、バルドーニが広報担当者に対して、オンラインハラスメントの被害にあった他の女優を指して「これが我々に必要なことだ」と指示めいた会話をしたことも明らかにされた。
下請け業者の関与を示すやりとりも提示されている。ライブリー側によると、下請け業者はテキサスが拠点のジェッド・ウォレスという人物で、全米の「デジタルアーミー」を使って、SNSに本物であるかのようなコンテンツを作成、植え付け、拡散することを専門にしている。ライブリーは、バルドーニらは、こうした捏造コンテンツを無知な記者に提供、拡散させて世論に影響を与え、それによって自然発生的な集団攻撃を引き起こしたとも主張している。
公開直後、メディアやSNSのセンチメントがバルドーニに好意的に転じたと報告を受けると、広報担当者は冗談めかしつつ「半分は同意できない」とネイサンにメッセージを送っていた。
ライブリーは、バルドーニらが作り出した「ソーシャルマニピュレーション」キャンペーンは、ネガティブなニュースサイクルを生み出し、SNSのアルゴリズムの生成・維持を助けたと主張。ライブリーの手がける事業のアカウントに憎悪に満ちたコメントが殺到するなど、ビジネスや家族にまで被害が及んだと指摘した。バルドーニらの活動は契約違反にとどまらず、州法と連邦法に違反したとした上で、「ライブリー、その他の出演者やスタッフ、その家族全員に与えた継続的な報復の脅迫による危害の責任を負わせるために訴訟を提起した」としている。
ライブリーによる告発に対して、バルドーニおよびWayfarerの弁護士はニューヨークタイムズに宛てた声明文で、「完全に虚偽の主張」と否定。ライブリー側を「恥ずべき」だとし、自らの責任による「悪い評判を修正するための絶望的な試み」と述べるなど、正面から対抗する姿勢を示した。また、訴状に示された証拠は、戦略を練るための内部のシナリオ計画と個人的な通信だけであり、「積極的な対処が行われなかったという証拠が明らかに抜け落ちている」と主張するなど、無実の証明に自信を示した。