狂人戦略?トランプ流外交の真意とは

6
ドナルド・トランプ
©MashupReporter

20日に就任式を控えるトランプ次期大統領は、国際舞台への復帰を見据えた大袈裟で攻撃的なレトリックを加速させている。

先週マール・ア・ラーゴで開いた記者会見では、メキシコ湾をアメリカ湾に改名する案を示したほか、ここ最近固執するグリーンランドの獲得やパナマ運河の返還をめぐって、軍事力や経済的圧力を行使する可能性を否定することを拒否した。カナダを51番目の州にするために、経済力の行使を辞さない姿勢も示している。

公約に掲げた一律10%~20%の追加関税、中国製品に対する60%の関税に加え、選挙に勝利して以来、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を課すと約束している。

外国の指導者は対応に追われている。

6日に退任を発表したカナダのトルドー首相は、米MSNBCのインタビューで、関税で対抗する用意ができていると述べるとともに、51番目の州発言は、貿易戦争がアメリカの労働者と企業に与える「非常に現実的な問題」から注意をそらすものと皮肉った。パナマの外相は、米国が四半世紀前に譲渡した運河の主権の「交渉の余地はない」と主張し、グリーンランドの自治領を管轄するデンマークの首相は、「グリーンランドはグリーンランド人のものだ」と反発した。

Advertisement

トランプ流「狂人理論」?

同盟国を挑発して予想外の要求を突きつける姿勢について、一部の専門家はニクソン時代の「狂人理論」の現代版と指摘している。

エセックス大学のナターシャ・リンドスタット教授によると、この理論は冷戦時代の学者ダニエル・エルスバーグ氏によって初めて提唱され、「狂人」という表現自体は、ニクソン大統領の発言から広まったとされる。

泥沼化するベトナム戦争に直面していたニクソン大統領は、ソ連の支援する北ベトナムに対して、あまりに共産主義に執着した自分は怒ると抑えが効かず、核戦争を始めかねないほど狂っていると思わせて、敵国から和平を懇願させようと語ったと伝えられている。

ただしニクソン氏とトランプ氏の違いは、前者が狂人のイメージを慎重に作り上げたのに対して、トランプ氏の振る舞いが総合的な計画に基づくものなのか、明らかではない点にある。トランプ氏はニクソン氏のように戦略的で計算高い人物というよりも、衝動的で場当たり的、無能だと評されてきたとリンドスタット氏は指摘している。

狂人理論は機能する?

狂人戦略がうまくいったケースは、歴史上ほとんど例がないという。

リンドスタット氏によると、トランプ氏も例外ではなく、そもそも、相手国が狂人として恐るべきなのか、嘲笑するべきなのかさえ明らかでない。自国の情報機関よりも敵国指導者の言葉を信じると述べた2018年のプーチン大統領との首脳会談後の記者会見やイランの核合意から離脱から文化施設を破壊すると脅しをかけた経緯、トランプ氏が外交政策上の勝利と豪語する北朝鮮の金正恩総書記との会談を挙げつつ、「これまでの大統領たちと同程度の成果しかあげていない」としている。

先週、Foreign Policyに「狂人理論は実際に機能するのか?」と題したエッセイを寄稿したタフツ大学のダニエル・ドレズナー教授は、トランプ氏は交渉戦略を過大評価していると主張。「トランプ氏が1期目で犯し、2期目でも犯すことになる大きな概念状の誤りは、同盟国を脅かすことができれば、同様の譲歩を中国やロシアからも引き出せると信じていることにある」と懸念を表明した。

また、オバマ政権時代にNATO大使を務めたダグラス・ルート氏は、NPRに対して、同盟国の指導者らは「トランプ氏のスタイルは、特に国内の政治基盤に向けて発言する際には、最終的に重大な政策に大きな影響を与えない」ことを理解していると述べた。さらに、トランプ氏の戦略は信頼性を損なうだけでなく、「機会費用」を伴うとも批判。「結局、信頼を失い、人々は起こらないことを心配して時間を費やすことになる。時間とエネルギーの浪費だ。ウクライナ支援といった他のことに費やした方が良い」と語っている。

Mashup Reporter 編集部
Mashup Reporter 編集部です。ニューヨークから耳寄りの情報をお届けします。