トランプ支持者の拠り所『Art of the Deal』って何?

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sweeann/shutterstock

「メディアはArt of the Dealを完全に見落としている。トランプ大統領が何をしようとしているのか、全然理解できていない」。

こんなふうに、アメリカの大統領報道官キャロライン・レビット氏は、10日の記者会見でトランプ氏の関税政策を擁護しました。

その前日、トランプ大統領は、報復的な「相互関税」の一時停止を発表しました。対象は、アメリカに報復関税をしなかった国々。つまり中国は対象外。停止期間は90日とされました。わずか1週間前、「解放記念日」と称して高い関税を打ち出し、市場を動揺させたばかり。ネットでは「トランプが屈した」と揶揄する声が出回っていました。

そんな中、元ホワイトハウス報道官で、現在はFOXニュースのキャスターを務めるケイリー・マクナニー氏がこうコメント。「ついにホワイトハウスに“もうたくさんだ”と言える人物が現れました。その人物こそが、Art of the Dealの著者です。私はその著者に賭けます」。視聴者にトランプ支持を貫くよう呼びかけました。

これまで関税政策に批判的だった著名投資家ビル・アックマン氏も、「お見事」と絶賛。SNSで「まさにArt of the Dealの教科書通りだ」と持ち上げました。

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ところで、その“Art of the Deal”とは、1987年に出版されたトランプ氏の自伝かつビジネス書のタイトルです。日本で「トランプ自伝: 不動産王にビジネスを学ぶ」として発売されベストセラーになったこの本で、トランプ氏は成功体験やビジネスの極意を明かしています。

「ディール(取引)は私の芸術だ」と豪語するトランプ氏は、大きなビジネスには「完全な集中力」が鍵であるとし、それは言わば「精神的障害」のようなものだと表現。成功者は、時に狂気じみた執着や熱意があるといいます。

また、「失敗に備えること」も重要だと説いています。自身はビジネスにおいて非常に保守的なタイプであり、常に最悪のケースを想定して取引に臨むのだそう。

さらに、ひとつの方法や取引に固執しすぎることを警告しています。どんなに魅力的に見える取引でも、ほとんどは失敗に終わるので、常に複数の選択肢を持っておくべきだという考え方です。

そして、彼は数字や調査に頼らないタイプでもあります。「数字に強い人」や「マーケティング調査」には懐疑的で、自分の直感を信じて判断するスタイルです。評論家の意見も、真剣に受け止めないと言います。

プロモーションについても独自の持論を展開しています。「広報担当者を雇うのは、外部コンサルタントに市場調査を依頼するようなもの」とし、「自分でやるに勝るものはない」と主張。注目されるような発言や行動をすれば、マスコミは勝手に記事にする。批判的な内容でさえ、ビジネスにとっては大きな価値があると語っています。

また、「虚勢を張ること」がプロモーションの鍵だとも述べています。人々は、大きな目標を掲げる人物に魅力を感じ、心を動かされるのだそうです。

自分を不当に扱う人や、利用しようとする相手には断固として反撃する姿勢も強調。その結果、状況が悪化する可能性があっても、自分が信じることのために戦えば、最終的には良い結果に繋がるという信念を持っているようです。

さらに、レバレッジ(有利な立場)を築いてから交渉に臨むこと、成果を出すことの重要性なども繰り返し強調されています。そして何より、トランプ氏は「取引を楽しんでいる」と語っています。

…と、このようなビジネス哲学を紹介していますが、ちょっと気になる一文もあります。それは、「取引が最終的に何をもたらすのかと問われれば、良い答えは見つからないかもしれない」という一節。つまり、彼自身もその場その場で動いているということです。

しかもこの本の出版から数年後、彼が自慢していたカジノ事業が次々と破産を申告したという現実も。トランプ氏はこれまでに6つのビジネスを倒産させたと言われています。そう考えると、Art of the Dealがどこまで信頼できる指南書なのか、トランプ支持者が金科玉条のように掲げることにも、疑問が残るところです。