2025年4月21日、フランシスコ教皇が死去した。これを受け、トランプ支持者の間で次期教皇をめぐる推し活が活発化しているようだ。
2020年の米大統領選でトランプ弁護団を率い、敗訴の山を築いた元ニューヨーク市長ルディ・ジュリアーニ氏は、カトリック教徒でもある(トランプ氏は違う)。彼は26日、支持者向けのメールで、次期教皇には保守的かつ伝統主義的な人物が選ばれるべきだと主張した。
ジュリアーニ氏が支持を表明したのは、ギニア出身のロバート・サラ枢機卿だった。メールではこう述べている。
「世俗主義、ウォーキズム、モダニズムが信仰の基礎を侵食している今日、われわれには、教会の時代を超えた伝統を断固として守り、文化を堕落させる一瞬の気まぐれに屈することのない教皇が必要だ。ロバート・サラ枢機卿のような、大胆で、反ウォーク、プロライフ、伝統主義者で、教会を揺るぎない道徳的核心へと導く指導者が必要である。」
さらにジュリアーニ氏は、フランシスコ教皇時代を、「あまりにも現代のイデオロギーに翻弄され、左派の利害を満たすために教会のスタンスを軟化させた」と批判。「包括性と環境主義への取り組みは善意によるものだったが、教会の道徳的明晰性が薄まった」と指摘し、「信者は進歩主義のエリートに迎合する教皇を必要としていない。道理を失った世界に毅然と構え、臆せず福音を宣する牧師が必要なのだ」と訴えた。
SNS保守派界隈でもサラ枢機卿推しの声
英紙「テレグラフ」によれば、フランシスコ教皇の死後、保守派のSNSユーザーの間でサラ枢機卿を次期教皇候補とする「熱狂的な憶測」が巻き起こったという。
拡散の一翼を担ったのは、サラ枢機卿のインタビュー映像にBGMなどを付加した動画だった。動画の中でサラ枢機卿はこう語っている。
「私の最大の懸念は、ヨーロッパがその起源を失ってしまったことです。…ヨーロッパが滅びつつあるのを恐れています。他文化、他民族に侵略されており、彼らは徐々にその数であなた方を支配し、あなた方の文化、あなた方の信念、あなた方の文化を完全に変えてしまうでしょう。」
この映像は、MAGA運動に近いインフルエンサー、ニック・ソーター氏らによって拡散された。
また、インドのカトリック系インフルエンサー、サチン・ホセ・エティイル氏は、次期教皇候補リストをSNSで共有し、そのトップにサラ枢機卿を据えた。フォロワー20万人を超えるアカウントによるこの投稿は、160万回以上閲覧されている。
「ニューズウィーク」によると、サラ枢機卿はリベラル神学、ジェンダー・イデオロギー、西洋の世俗主義的衰退に強く反対する立場で知られる。
彼は中絶、安楽死、ポルノ、ジェンダー・イデオロギーといった問題をキリスト教の基盤を侵食するものだと位置づけ、2019年の「カトリック・ヘラルド」誌のインタビューでは、教会に存在するのは『同性愛者の問題』ではなく、『罪と不倫の問題』であると語った。また、2015年のバチカンの司教会合では、イスラム過激主義と西洋リベラル文化を「二つの終末論的な獣」と表現したと報じられている。
サラ枢機卿支持の動きは保守派にとどまらない。ロシア寄りのナラティブを広めているとされる「Radio Genoa」や「African Hub」といったアカウントも、総計200万人以上のフォロワーに対し、「世界中のカトリック教徒がサラ枢機卿を次期教皇に望んでいる」といったメッセージを拡散している。
一方、ベッティングサイト「Polymarket」では、サラ枢機卿の当選確率はフランシスコ教皇死去前は2%だったが、死後5%に上昇。現在、候補者リスト中7位につけている。
とはいえ、現状ではサラ枢機卿が有力候補とは言い難い。実際、ベッティング市場ではまだ泡沫候補の域に留まっている。ただし、2013年の教皇選挙でフランシスコ教皇自身が当初15位だったことを考えると、コンクラーベの予測不可能性もまた無視できない。
MAGAの宗教勢力図に変化
「テレグラフ」はまた、共和党支持層における宗教的傾向にも注目する。これまで福音派が中心だったが、トランプ氏の復権を背景に、MAGA運動内でカトリックが新たな勢力として台頭しているという。
トランプ政権の主要閣僚の約3分の1がカトリックであり、これには2019年に改宗したJ.D.バンス副大統領、マルコ・ルビオ国務長官が含まれる。ホワイトハウスのレビット報道官も熱心なカトリック信者であり、記者会見前にスタッフと共に祈りを捧げる姿が話題となっている。
さらに、著名なトランプ支持者であるラッセル・ブランドは昨年、テムズ川で洗礼を受けた。また、極右メディアパーソナリティのキャンディス・オーウェン氏、コメディアンのロブ・シュナイダー氏も、近年カトリックに改宗している。
草の根レベルでもカトリックは勢いを増しており、今年のイースターには全米の教区で前年より改宗者数が最大70%増加したと報じられている。
ヴィラノバ大学の歴史神学教授マッシモ・ファッジョーリ氏は、この動きについて「一部の人々にとって、それはローマ帝国最後の痕跡に加わるという選択」であり、「西洋を救わなければならない」という意識が改宗を後押ししていると説明する。
米国におけるカトリック教会は、フランシスコ教皇による移民や性的マイノリティへの包摂的な姿勢に距離を置き、より保守的な方向へと傾いている。1960年代には政治的にリベラルを自認する司祭が半数を占めたが、2020年以降に叙階された司祭のほぼ全員が穏健派または保守派を名乗っているという。
「テレグラフ」はさらに、米国で醸成されてきた保守カトリックの復興は、ローマ教会のリベラル改革への反発であるとしつつ、バイデン政権下で増したカルチャー闘争に対するカトリックの懸念と共和党の訴求ポイントの「巧みな一致」が、緊張を一気に表面化させることに繋がったと指摘している。
ファッジョーリ教授は、現代アメリカのカトリック運動は「20世紀のローマ・カトリックとは明らかに異なるタイプのカトリック」であり、「カトリック教会の刷新に反対する報復主義的な運動」であると説明する。
教皇選挙(コンクラーベ)は、教皇が空位となってから15~20日後に、バチカンのシスティーナ礼拝堂で開催される。投票資格は80歳以下の枢機卿に限定される。少なくともネットの予測ではサラ枢機卿は有力候補ではない。MAGAの推し活が大きく影響するとも思えない。それでももし選出されれば、フランシスコ教皇とは対照的な潮流を象徴する存在となり、世界中の注目を集めることになるだろう。