ジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を務めたディック・チェイニー(Dick Cheney)の半生を描いたアダム・マッケイ(Adam McKay)監督最新作『バイス』(VICE)。
アカデミー賞の行方を占うゴールデングローブ賞では、ミュージカル・コメディ部門で作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞(クリスチャン・ベール)、助演女優賞 (エイミー・アダムス)、助演男優賞(サム・ロックウェル)の最多6部門にノミネートを果たした。
作品は、アダム・マッケイ監督の『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015)で主役を務めたクリスチャン・ベール(Christian Bale)がディック・チェイニー役を好演。役作りのために20キロ増量し、本人さながらの貫禄ある風貌も話題となっている。さらに、同作で共演したスティーブ・カレル(Steve Carell)がネオコンの重鎮、ラムズフェルド元国防長官に、チェイニーの妻リン・チェイニー役には、過去5回アカデミー賞にノミネートを果たしたエイミー・アダムス(Amy Adams)を起用。ジョージ・W・ブッシュ元大統領役を『スリー・ビルボード』でアカデミー賞助演男優賞を受賞したサム・ロックウェル(Sam Rockwell)が演じる。
日本では4月5日より公開
あらすじ
映画は、チェイニー副大統領をはじめとする政府高官が、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロの対応に追われる場面から始まる。この日を境に、アメリカはアフガン戦争やイラク侵略といった強硬路線を突き進むことなる。その後、舞台は1960年代のワイオミング州に。そこでは、イエール大学を中退し、アルコール中毒に苦しんでいた若きチェイニーが描かれる。妻のリンの説得により、一念発起したチェイニーは、インターンとして政界入りし、ニクソン政権で機会均等局長を勤めていたドナルド・ラムズフェルド氏の実直な部下としてキャリアをスタート。キッシンジャーとニクソン大統領がカンボジア作戦を秘密裏に話し合う場面を間近で体験するなど、ワシントンの強大な力を目の当たりにする。その後、フォード政権の大統領首席補佐官時代、心臓発作と戦いながら当選を果たした下院議員時代、ジョージ・H・W・ブッシュ政権における国防長官時代など、政界の階段を駆け上がるエピソードが語られる。映画後半では、石油関連企業 ハリバートンのCEOから、ジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領として政界に復帰。場面は再び9.11に戻り、エネルギー、外交分野に巨大な力を発揮する”影の大統領”の姿が描かれていく。
米国での評判は賛否両論
北米では12月25日に公開され、オープニングの週末は780万ドル(8億4,600万円)を記録した。
観客の出口調査を行うシネマスコア(Cinemascore)では、A+からFまで幅広い評価となっており、平均ではC+となった。
批評家の評も割れており、ロッテントマトによる評価は63%となっている。
エイミー・アダムスや、クリスチャン・ベールなど俳優の演技は評価されているが、ディック・チェイニーの描き方やストーリー展開に関する批評が多い。
ワシントンポストのアン・ホーナデー(Ann Hornaday)は、「構造的にめちゃくちゃで、至るところがジグザク。いつ終わるのか見当がつかない。突き刺ささるような、もしくは深く考えさせるようなアイデアはなかった。」としている。
ジョージ・W・ブッシュ元大統領のスピーチライターで、チェイニーやラムズフェルドら登場人物をよく知るマット・ラティマー(Matt Latimer)は、政治系サイトのポリティコ(Politico)に映画評を寄稿。
当時、国家安全保障担当補佐官を務め、イラク戦争開始への舵取りに大きな役割を果たしたコンドリーザ・ライス(Condoleezza Rice)氏にほとんど触れていないことを指摘。また、ラムズフェルド元国務長官についての描写や、スティーヴ・カレル(Steve Carell)の演技も誤ったものだとして、「左派のファンタジーを支持するために、歴史を完全に書き換えるのは誰だ?」と怒り露わにしている。また、映画の中に特に新たな情報は見当たらず、「ボブ・ウッドワードとオリバー・ストーン、マイケル・ムーアをリサイクルしたゴミ袋なんかでは、オスカーを獲得できない」と述べた。
ラティマー氏は、これらの誤った情報は、2016年同様、2020年に再びトランプに勝利をもたらす可能性があると警告する。