米アマゾン(Amazon)は14日、地元議員らの反対を理由に、ニューヨークのクイーンズの第2本社建設計画を中止すると発表した。
アマゾンのジェフ・ベゾス氏(Jeff Bezos)最高経営責任者(CEO)が所有するワシントンポストは8日、アマゾンが建設計画の見直しを検討していることを報じた。そのわずか6日後の中止発表は、地元ニューヨークだけでなく全米に大きな衝撃が走った。
政治家/アクティビストの反応は?
今回第2本社建設の誘致を主導してきたのは、ニューヨークのアンドリュー・クオモ(Andrew M. Cuomo)州知事と、ビル・デブラシオ(Bill de Blasio)市長。政策を巡り意見が対立することの多い2人が、ニューヨークのランドマークをオレンジに変えてラブコールを送るなど積極的な誘致活動を行ってきた。
クオモ州知事は、アマゾンは4万人もの高賃金の雇用と歳入をもたらす予定だったと述べ、反対活動を行った議員らに対し、「失われた経済的損失についての責任を負うべきだ」と非難する声明を発表した。
アマゾンが計画中止を発表する前日、クオモ知事は小売・卸売・百貨店労働組合のトップ、スチュアート・アペルバウム(Stuart Appelbaum)氏らを交え、アマゾン役員らと会談を行っている。アペルバウム氏は、打ち合わせは生産的な内容で、最後は握手しお互いフォローアップすることで合意していため、非常に驚いているとNYポストに語っている。
デブラシオ市長は、ハーバード大学への出張中に中止の発表を知り、青天の霹靂だったと述べている。声明では、世界で最も優秀な人材とビジネスを行うため機会を棒に振ったと、アマゾンの判断を非難した。
プロセスの不透明性や、州や市による多額の税制控除を理由に反対活動を行ってきたのは、民主党のジミー・ヴァン・ブラマー(Jimmy Van Bramer)市議会議員と、マイケル・ジアナリス(Michael Gianaris)州議会上院議員。
NYポスト紙によると、事情を知る人物は、2人の議員はアマゾンと一度も話し合いの機会を持たなかったと述べており、起こるべくして起こったとしている。
中止発表の当日に、建設予定地で勝利宣言を行ったブラマー議員に対し、「ジミー・ヴァン・ジョブキラー!」と罵声を浴びせる地元住民も現れた。
ニューヨークのクイーズ/ブロンクス地区から選出された新米議員のアレクサンドリア・オカジオ・コルテ・コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)下院議員も、反対を表明してきた議員のうちのひとり。中止決定の一報に「アマゾンの企業欲や労働者の搾取、世界一裕福な男からの権力に打ち勝った日だ」とツイートし、喜びを語った。このツイートに対しては、25,000人の雇用や税収を失ったことを祝福していると、非難が寄せられている。
市役所の職員は、ホームレスの施設一つ建設するのにも、(地元の反対は)体験することだ。議論が鎮静しないから去りますというのは、みっともないとアマゾンを非難した。
大学の無償化やアフォーダブルハウジング制度、皆保険を提唱する団体Desis Rising Up & MovingのFahd Ahmedさんは「我々の近隣に恩恵をもたらす経済開発計画の始まりだ。」と中止を祝した。
ジャクソンハイツの移民擁護団体Angeles Solisさんは、アマゾンは移民税関捜査局(ICE)への協力を行っていると述べ「中小企業や移民のコミュニティに損害を与える強引なやり方だ。」と非難。
不動産業者/レストランなど地元住民
ロングアイランド地区の不動産業者の多くは落胆した。Gothamnistによると、地元不動産Modern Spaces社は、昨年12月のコンドミニアム販売件数は、通常40ユニットのところ、300ユニットに達したという。同社のエリック・ベナイム(Eric Benaim)最高経営責任者は、「社会主義の思想と政治家が、長い年月かけて我々が築き上げてきたものを差し置いた悲しい日だ。」と語った。
ニューヨーク不動産業界の団体REBNYは、インフラ整備に関わる雇用創出の機会と税収を失ったことに失望していると声明を発表した。
ウォーターフロントエリアに住宅や工場、学校の建設など大規模開発を計画していたプラスチック会社のプラックスオール(Plaxall)社も遺憾の意を表した。
地元でピザ屋を営むSteve Logiudiceさんは、「本当に心が張り裂けるよ。客の出足は遠のくだろう。建設会社の労働者や企業の従業員などの来店を頼みにしていた。」とNYポストに語った。
レストランManducatis RusticaのオーナーGiana Cerboneさんは「これは悪夢だ。議員らは、コミュニティや、彼らに投票した人々のことを考えていない。」非難した。
地元でギフトショップとギャラリーMattedを営むDonna Drimerさんは「ビジネスを長い間営む中で、一番突拍子もない出来事だった。」と述べている。
一方で、オフィスのテナント料や家賃の上昇に歯止めがかかるとして、安心する声も上がっている。
アマゾンから1,500人の雇用を約束されていたクイーンズの公営住宅クイーンズブリッジ団地のアクティビスト、ビリー・ロビンソン(Billy Robinson)さんは、ブルームバーグのジョー・ノセラ(Joe Nocera)氏に怒りながら、連絡してきたという。市は失われた雇用のバックアップ計画はあるのかと疑問を述べた。
15日、34丁目のアマゾンブックスの前では「アマゾンは私たちの元から去った」「ボイコットせよ」と中止を非難する人々がデモ活動を行った。patchによると、デモを行った人の中には、ロングアイランドシティの一軒家をリノベーションするための資金を借りたレストランオーナーや、アマゾンの求人に応募し、授業料を返済しようと考えていた学生も含まれる。
地元メディア
地元紙NYデイリーニュースとNYポストはともに、建設を失敗に終わらせる要因となった議員らを厳しく批判するオピニオンを掲載した。ブルームバーグは、コミュニティや議員をまとめようとしなかった州知事と知事を非難した。
デイリーニュースは、「いわゆる進歩党員らは、ニューヨークにもたらされる2万5,000人から4万人の雇用を葬り去った。学校、地下鉄、公営住宅、健康保険に充てられるはずだった3兆円の税収をもたらす計画を切り裂いた。」として、ジアナリス議員とアンドレア・スチュアート・クーザン(Andrea Stewart-Cousins)上院議員、コルテス下院議員、コーリー・ジョンソン(Corey Johnson)市議長を名指しで非難した。
NYポストも、シエナ大学が行った直近の世論調査(NY市の有権者58%が賛成)を示し、半数以上の住民は建設を指示していたと述べた。プロの活動家は我々の家族を養うことはないと非難。ニューヨークの街全体は、反対活動を行った人々の愚かな行動を後悔することになるだろうと述べた。
ブルームバーグのジョー・ノセラ(Joe Nocera)氏は論説を寄稿し、アマゾンはコミュニティとの関わり方を誤ったとの指摘に対し、これらはクオモ州知事やビル・デブラシオ(Bill de Blasio)ニューヨーク市長の仕事だと指摘。市長は声明でアマゾンは機会を棒に振ったと述べたが、アマゾンによる莫大な雇用創出の機会を棒に振ったのは、州知事と市長の方だと、その傲慢さを厳しく非難した。