イリノイ州検察は26日、1月に黒人や同性愛者に対するヘイトクライムを自作自演し、虚偽通報を行ったなどの容疑で逮捕された米俳優ジャシー・スモレット(Jussie Smollett)氏(36)への起訴を全て取り下げると発表した。
クック郡州検事局は声明で「スモレット氏は、地域社会における奉仕活動や、保釈金の没収に関する合意を含む、全ての事実やその状況を鑑みた結果、この(不起訴は)適切であり、解決したものと考える。」と述べた。
ニューヨークタイムズによると、不起訴の判断を下したジョー・マーガット(Joe Magats)検察官は、「警察の捜査や証拠に何ら問題はなかったとしながらも、スモレット氏が社会奉仕や1万ドル(約110万円)の保釈金の返還を諦めた後に、不起訴を決定した。」と述べた。さらに、スモレット氏には犯罪歴がなかったことも加えた。
またマーガット検事は「シカゴでは過去2年に5,700件の刑事訴訟が提起されており、検察は”暴力のけん引役”に資源を集中させようとしている」とABCニュースに語っている。
今回の事件に関し、「スモレット氏は暴力のけん引役にはなるとは思わない。」と述べている。マーガット検事はスモレット氏は自作自演を行ったと思っており、起訴は取り下げられたが、「彼の疑惑が晴れたわけではない。」と回答した。
スモレット氏の弁護士は会見で「彼は当初からどの段階でも、真実かつ一貫性のある主張を行ってきた。」と述べた。
事件の経緯
スモレット氏は1月29日、2人の男性から反同性愛者かつ人種差別的な言葉で罵られ、「これが(トランプ大統領の選挙スローガン)MAGAの国だ。」と首にロープをかけられたと警察に通報を行った。
しかしスモレット氏自身が、ナイジュリア出身の兄弟2人に3,500ドルを支払い、犯行を行わせた自作自演の暴行であった容疑が浮上。スモレット氏は出演中のFOXドラマ『Empire 成功の代償』の撮影所に白い粉を同封した強迫書を送付したが、周囲に取り合ってもらえなかったことが犯行の動機と報じられた。これらの警察発表により、スモレット氏の立場は、被害者から加害者へと一転。世間を驚かせた。
スモレット氏は2月21日、虚偽通報と通治安紊乱行為の罪で訴追され、3月に16件の重罪に問われていた。
一方、スモレット側の弁護士は、スモレット氏と兄弟の間に合意はなかったとして無罪を主張していた。
シカゴ市長と警察は強く非難
今回の検察の判断に対し、シカゴ市のラーム・エマニュエル(Rahm Emanuel)市長は、「司法によるごまかし」と強く非難した。「制度の説明責任はどこにある?その人物の立場によって、独自のルールを設けることはなく、独自のルールは全員に適用されることもない。」と会見で怒りを露わにした。さらに「我々の警察官は、その夜発生したことを解明するために、日夜何時間も懸命に捜査に向かい、市の名声は汚された。」と述べた。
捜査を指揮してきたエディー・ジョンソン(Eddie Johnson)警察本部長も「市に対して、なお謝罪の必要がある。」と非難した。
シカゴ市のダリー・ゴールドバーグ(Darryl A. Goldberg)弁護士は、この事件に関し、多数の証拠がありながらも、検察が立証責任を果たすのが難しいだろうと思っていたとニューヨーク・タイムズに語っている。「シカゴ市が法執行機関を駆使し、捜査にかかった多額の費用を回収するための独創的方法であった可能性もある。」と見解を述べた。