ダラス連邦準備銀行のJohn V. Duca氏のレポートによると、ギグエコノミーで働く個人事業主や契約労働者の増加と、オンラインの台頭による小売の熾烈な価格競争が、記録的な低失業率が続く間も、賃金上昇率とインフレを抑えているという。
一般的に、失業率とインフレは負の相関関係(トレードオフ)にあるとされ、経済学ではフィリップス曲線と呼ばれる理論で説明されてきた。しかし、金融危機後も、賃金上昇率は「異常に抑制された」ままとなっている。
ウーバーのように、ギグエコノミー企業は基本的に社員ではなく、コントラクターや個人事業主といった形態で雇用している。Duca氏は、これらの労働者は「企業のペイロール(給与名簿)に載らず、仕事に就いていない時は失業者にもカウントされていない」といい、結果として労働市場のスラック(需給のゆるみ)が低めに表されていると述べる。
加えて、ギグエコノミーで働くこれらの労働形態は、賃金の交渉力が弱く、結果、自然失業率と実質平均賃金の低下につながるとしている。
オンライン巨大企業
失業率には、一定の割合で失業者が存在する自然失業率と呼ばれる水準があり、この水準に近づくと、物価が急速に上昇し、フィリップス曲線が急勾配になると考えられてきた。しかし、米国では近年、自然失業率を下回る水準になってもインフレ率が上がらず、フィリップス曲線が水平化する現象が起きている。
Duka氏によると、小売市場のオンライン取引の急激な増加に伴い、消費者は、地理に関係なく低価格で商品を求められるようになり、ローカルにおける財やサービスの不足が最小化され、地域における独占的な支配力も低下している。結果、アマゾンなどの巨大企業が台頭する以前に比べ、現地価格の上昇圧力が弱まり、フィリップス曲線の水平化につながっているという。
Duka氏は、オンライン小売とギグエコノミーの雇用のどちらも単体では、近年の賃金とインフレの関係変化について説明ができないと述べる。
オンラインショッピングの台頭は、ローカル企業の独占力や財・サービス不足を削減することで、フィリップス曲線の水平化に貢献するが、小売部門以外での賃金上昇の抑制や労働市場の変化を説明できない。一方、ギグエコノミーの雇用は、近年の自然失業率の低下と賃金上昇の抑制を説明するが、金融危機におけるインフレがなぜもっと下がらなかったのかを説明できない。
Duca氏は、テクノロジーの進化による失業率とインフレの変化を指摘しつつ、「これらのショッピングと雇用慣行の変化は、未だ新しいものであるため、統計分析にはデータが不十分だ」と述べ、「これらの影響の正確な範囲を特定するためには、さらなる観察と分析が必要だ」としている。