ロシアの反体制派の指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏が獄中で死亡したとの一報に、各国の指導者らから非難の声が上がった。
ロシア連邦刑務所サービスは16日、ナワリヌイ氏は散歩中に気分が悪くなり、意識を失ったと状況を説明。刑務所の医師らがすぐに救急車を呼び、必要な蘇生措置をすべて施したが効果がなかったとした。
バイデン大統領は記者会見で「驚き、憤慨している」と述べ、「間違いなく、プーチンはナワリヌイ氏の死に責任がある。ナワリヌイ氏に起きたことは、プーチンの残虐性のさらなる証拠である」と厳しく批判した。
フランスのマクロン大統領は、X(旧ツイッター)を更新し、「今日のロシアでは、自由の精神はグラーグ(旧ソ連の矯正労働収容所)送りにされ、死刑に処される。怒りと憤りだ」と投稿した。
安全保障会議でミュンヘンを訪問中のウクライナのゼレンスキー大統領は「反体制派の指導者であれ、標的となるいかなる者でも、プーチンは自分が望む人物を殺害する」と述べ、「ナワリヌイ氏の殺害後もプーチンがロシアの国家の正当な長とみなすのは馬鹿げている」と語った。
マンハッタンのロシア総領事館前ではナワリヌイ氏の支持者や死を悼む人々による集会が行われた。午後5時過ぎに数十人でスタートした集会は最終的に数百人の規模に膨らんだ。遺影に花束を捧げるとともに、「ナワリヌイは死んだのではない。殺された」「プーチンは殺人鬼」といった掛け声やプラカードを掲げた。
死因は?
ナワリヌイ氏は、2020年にロシア国内を飛行機で移動中に神経剤を盛られて倒れた後、ドイツに搬送され奇跡的に回復した。当時、ナワリヌイ氏とともに、暗殺未遂へのロシア連邦保安庁(FSB)の関与を突き止めたジャーナリストのクリスト・グローゼフ氏は、当局の発表に不審な点を指摘している。
同氏は17日、Xの投稿で、当初の発表は「血栓」だったが「突然死」に変更されたと説明。さらに「不明」に変わり、遺体が「再鑑定」に送られたとした上で、「再鑑定の連中が、ロシアでは毒殺者であることを思い出してほしい」と投稿した。
「再鑑定の連中、つまりFSBの刑事科学捜査研究所について、われわれは2020年のナワリヌイ暗殺未遂の背後いたことを暴いた」と続け、「同じ奴らが、ボリス・ネムツォフ氏の再鑑定を行った」と加えた。ウクライナへの軍事介入に抗議していた野党指導者ネムツォフ氏は、2015年、モスクワの中心部で銃撃され、死亡している。
グローゼフ氏はCNNのインタビューでも、違法な独房監禁を含む3年におよぶ「拷問」が健康を破壊した可能性もあるとする一方で、毒殺の可能性が最も高いと語った。
毒が盛られている可能性については、以前にも指摘があった。
ワシントンポスト紙によると、ナワリヌイ氏が収監されてから2年以上が経った昨年4月、同氏の弁護士ヴァディム・コブゼフ氏は、当時のナワリヌイ氏の健康状態を「あからさまで非常に奇妙な状況」と疑問を呈した。「これまで何の兆候もなかった発作」があり、徐々に健康が悪化するように「ゆっくりと毒を盛られている可能性を排除することはできない」とSNSに投稿した。
懲罰房入りを繰り返していたナワリヌイ氏は、当時、急性の腹痛と発作に苦しみ、体重が17ポンド以上減少したという。しかし、医師は病気を診断せず、本人には「春には誰もが健康上の問題を抱えている」などと告げていた。
このほかにも、不十分な医療や拷問の可能性が指摘されてきた。
ガーディアンによると、ナワリヌイ氏は刑務所で緊急治療を拒否されたことで、ハンガーストライキを行ったことがあった。当局による心理的な圧迫や睡眠剥奪の対象にされていると窮状を述べ、片足がしびれ、体重をかけられないと苦痛を訴えていた。
過剰な懲罰を受けていたとされ、もう一人の弁護士キラ・ヤルミシュ氏は今年1月、ナワリヌイ氏は25回目の独房入りになったと述べ、すでに独房の生活は合計283日になるとしていた。
12月にはモスクワから250km離れたメレホボの刑務所から、列車で44時間、1,200km離れたヤマロ・ネネツ自治区にある特別刑務所に移送された。施設は、スターリン時代に鉄道建設のために建てられた囚人の労働収容所を継いだもので、ロシアで最も過酷な環境の刑務所の一つとして知られているという。