アラバマ州で米国で初めてとなる窒素ガスを用いた死刑が執行された。
刑を受けたのはケネス・ユージン・スミス死刑囚(58)。スピリチュアルガイドとして最期を見届けたジェフ・フッド牧師は、これまで目撃した中で「最悪の出来事だった」と語っている。
フッド氏によると、スミス氏は消防隊員のようなマスクを被らされ、窒素ガスを吸入させられた。ガスが入り始めると激しく痙攣し、担架の上で何度も飛び跳ねたという。立会い室にいた刑務官らは驚いた様子で見守っていたという。
9分から10分間は息をしていた可能性があるとし、「今晩、信じられない邪悪が解き放たれた」と語った。「このようなことはかつて見たことがない」と述べ、「あれは拷問だ」と非難した。
AP通信によると、立会い室のカーテンが開いてから閉まるまでの時間は22分間だった。少なくとも2分間、担架の上で痙攣、もがき、拘束具を引っ張るように見える場面もあった。呼吸が知覚できなくなるまで、数分間にわたって荒い呼吸が続いた。
執行前、立会い室で見守る家族に、手で「愛している」サインを送ったという。最後の言葉は「今晩、アラバマはヒューマニティーを後退させた。私は愛と平和、光を抱いて出発する。サポートしてくれてありがとう。みんなを愛している」だった。午後8時25分に死亡が確認された。
昨年8月に州が定めた窒素による死刑執行手続きによると、死刑囚にマスクを被せて、窒素ガスを15分間、または心電図の波形が平らになってから5分間送り続けるとされている。
アラバマ州矯正委員会のジョン・ハム委員長はAPに、ガスが流された時間は15分間だったことを確認したと説明。一方、痙攣やもがきは、無意識の動きのようだと述べ、「窒素低酸素症に関して見たり、研究したりした副作用の中に含まれていたもの」であり「予想外のものは何もなかった」と強調した。
これに対して、先述のフッド氏は「われわれが見たのは30秒で意識を失った人ではない。命のためにもがく数分間だった」と語った。
CBSニュースによると、スミス死刑囚は1998年、シェフィールドにある教会の牧師の依頼で、もう一人の男と共謀して、牧師の妻の胸や首を刺して殺害した。牧師はその一週間後に自殺した。1989年に有罪判決を受け、死刑を言い渡された。1992年に控訴審で有罪が覆されたが、1996年の再審理で再び有罪となった。陪審は当時、11対1で終身刑を勧告したが、裁判官がこれを覆し、死刑を宣告した。
アラバマ州では2017年、陪審による死刑の量刑勧告を判事が無効にする慣行を廃止したが、変更は遡って適用されない。
スミス死刑囚に死刑が執行されたのは2回目だった。2022年11月に薬物注射による処刑が試みられたが、「90分間以上にわたって、静脈にアクセスしようとしたにもかかわらず」失敗し、そのまま死刑執行令状の期限が切れた。
スミス死刑囚は、アラバマ州の「窒素低酸素症」による処刑は「持続的な植物状態、脳卒中または窒息の痛みといった追加の痛み」を生じさせる重大なリスクがあるなどとして、差し止めを求めて州を訴えたが、同州の連邦地裁は今月10日、州に窒素ガスの死刑執行を認める判決を下した。その後、連邦最高裁に審理を要請したが、同裁判所は24日に却下の判断を下した。
Death Penalty Information Centerによると、死刑は27州で許可されており、このうち6州では行政命令によって執行が一時的に停止されている。アラバマ州のほかに、オクラホマ州とミシシッピ州で窒素ガスによる処刑が代替法として承認されている。