相次ぐ出馬表明で、すでに混戦の様相を呈している2020年米大統領選の民主党の候補者指名争い。各種調査では、未だ正式な出馬表明をしていないジョー・バイデン前副大統領とバーニー・サンダース上院議員が支持率で他の候補者を大きくリードしている。
両議員に代表されるように中道・穏健派と左派の対立が取りざたされる一方、アジア系アメリカ人として初めて民主から出馬を表明したアンドリュー・ヤン(Andrew Yang)氏(44)は、オートメーションの急速な発達がもたらす産業変革に対応する新経済の一つとして、ユニバーサルインカムを公約に掲げ、徐々に知名度を増している。
ヤン氏はユニバーサルベーシックインカム(UBI)を「自由の配当(The Freedom Dividend)」と呼び、18歳から64歳のアメリカ人すべてに月1,000ドル(11万円)を支給することを公約としている。
UBIの必要性についてヤン氏は、「過去最大の技術変化」を理由に挙げる。2015年までにオートメーションにより製造業で400万人の雇用が奪われており、マッキンゼーの2017年調査では今後12年でさらに3分の1のアメリカ人が職が自動化にとって変わられるという。これらは労働参加率を一層低下させ、貧困を助長、経済を不安定化させることとにつながるが、ヤン氏は、政治がこれらの危機に対処する準備をしていないと、主張する。
UBI反対派からは、財源の確保を不可能とする声も多い。一人あたり12,000ドルを支払う場合、年間支出は、現在の国家予算の約半分の2兆ドルに上る。
財源についてヤン氏は、フードスタンプなど、現在すでに福祉プログラムで提供している5,000億~6,000億ドル(現在の受給者は継続するか、UBIを受け取るかどちらかを選択)、付加価値税の導入、UBIが生み出す消費による経済成長、セルフケアの増進や犯罪低下による社会的コストの減少分によって確保が可能だと主張する。
7日、日曜のABC報道番組『This Week』に出演したヤン氏は、トランプ大統領の勝因を「ミシガン、オハイオ、ペンシルバニア、ウィスコンシン州といった彼らが勝たなければならない激戦州で、オートメーションによって400万人の雇用が失われたからだ」と述べ、米国史上最大の経済的、技術的転換を迎え、我々は次のステージに進化しなければならないと語った。
ニューヨークタイムズによると、ヤン氏には、国際サービス従業員労働組合(Service Enoloyees International Union)のアンディ・スターン(Andy Stern)前会長が支持を表明しているほか、オンライン靴店ザッポスのトニー・シェイ(Tony Hsieh)最高経営責任者、ベンチャーキャピタリストら、フェイスブックやグーグルの元役職者らが出馬の初期段階で寄付を行なったという。ヤン氏は今月、出馬から2ヶ月弱で170万ドルの寄付が集まったたことを発表。寄付金の平均単価は17.92ドルで、99%が200ドル以下だという。
アンドリュー・ヤンとは?
ヤン氏(44)は、台湾人を両親にもつ移民の2世。キャンペーンページによると、父親はIBMの研究者で、母親は大学のシステム管理者をしていたという。
ニューヨーク州中部の都市で育ったヤン氏は、ブラウン大学で政治経済学を学んだのち、コロンビア大学のロースクールに入学した。
企業の弁護士として短期間務めたのち、起業家に転身。複数の起業を経験したのちに、2012年に、ボルチモア、デトロイト、ピッツバーグ、クリーブランドなどの都市で、起業家の雇用創出を支援する非営利組織「Venture for America」を設立。2017年までに2,500人の雇用の創出に貢献したという。
ヤン氏はホームページで、「この過程(Venture for America)で、雇用創出はオートメーションによる膨大な雇用の消失を上回ることはできないことが明らかとなった」と述べ、「我々は、国が直面する問題についてより大きく考えなければならない。だからこそ2020年大統領戦に出馬する」と語っている。
ヤン氏は、ベーシックインカムをはじめとした課題について、自著の中で詳細を論じている。
The War on Normal People: The Truth About America’s Disappearing Jobs and Why Universal Basic Income Is Our Future |
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