バイデン政権がワクチン義務化の動きを加速させる中、反ワクチン派の間では、接種後に成分を体内から除去するという、根拠のないデトックス法がSNSで拡散されている。NBCニュースが伝えた。
発信元の1人は、整骨医だというキャリー・マデジ氏。TikTokに投稿した動画で、一連の物質を取り上げ、お風呂に入れると「ワクチンのデトックス効果」があると喧伝していた。
マデジ氏は動画で、ワクチンは、体内の放射能を活性化させるなどと主張した上で、重曹とエプサム塩は放射能を除去できると、誤った「放射能デトックス」効果を解説。また、セラピーでワクチンによる毒物を体外に放出することができるとした上で、ベントナイト粘土が「除去に大きな役割を果たす」と主張していた。
さらに、ホウ砂1カップ注ぐことで「ナノテクノロジーを体内から取り出せる」と、意味不明の解説も加えていた。ホウ砂は、洗浄剤に使用される物質で、米食品医薬品局(FDA)は食品添加物としての使用を禁止している。
実際のところ、ホウ砂入り「デトックス風呂」にワクチンの影響を体内から取り除く効果など一切なく、かえって、皮膚や目に不快感をもたらす可能性があるという。
カナダ、サスカチュワン大学の非常勤講師でウイルス学が専門のアンジェラ・ラスムーセン氏は同局の取材に答え、「一度体内に入った瞬間に、ワクチンの生命を維持するプロセスが始まっており、後戻りはできない。物理的に無理」と話している。
こうしたワクチンデトックス説は、反ワクチン主義者の間では、ありがちな主張なのだという。
コロナよりも以前から、反ワクチンのインフルエンサーや新健康法の提法者らによって、子供時代に受けた予防接種の有害物質を取り除くと称した、科学的根拠のない、時に危険な除去法が流布されてきたという。特に自閉症を患う子供は、主張を信じた親によって、こうした療法の対象とされてきた。費用が高額に及ぶことも多いワクチンデトックス法の中には、食事制限やサプリメントのほか、キレーション療法、高気圧酸素治療といった方法、さらに危険なものもあるという。
新型コロナをきっかけに、こうした動きが新たな形で再燃しており、マデジ氏の他にも、現在、古典的な民間療法として知られるカッピングセラピーを直ちに行って、ワクチン成分の除去を早めなければならないと呼びかけるものや、接種済みの成分を注射器で吸い出すといった方法まで、様々な説が拡散されているという。
なお、マデジ氏は、整体を扱うオステオパシー専門の内科医だが、これまでも新型コロナワクチンに関して科学的根拠のない説を提唱したり、Qアノンを含む陰謀論をたびたびツイッターで拡散したりしていた。 本人は「 イエス・キリストの名のもとの真実を医学を通じて実践する」者を自称している。
マデジ氏の「ナノテクノロジー」が、何を指すのかは不明だが、自身が運営するポッドキャストチャンネル「Reawaken America(アメリカの再覚醒)」で、以前、新型コロナワクチンには「液化演算システム」があると語っていた。また、ワクチンは「人間変革の入り口」などとも主張しているという。
マデジ氏の投稿は、TikTok運営側により削除されたが、別のユーザーによる、オリジナル動画を貼り付けてコメントできるリシェア機能を使った二次使用的な投稿が、数十万ビューを獲得するなど、話題になっているという。この中には、マデジ氏のコメントに合わせてデトックス風呂の手順を書き出したり、実際にデトックス風呂の準備をした浴槽や、成分を混ぜ合わせた容器と紹介したりする内容もある。
マデジ氏の提唱する説は、これまでことごとく事実確認の末に誤りだと判明しており、ファクトチェックサイトPolitifactから6段階中最低の“Pants on Fire”(不正確で馬鹿げている)の評価を受けている。
デトックス法拡散は良い兆候?
前出のラスムーセン氏は、ユーザーが誤情報に基づいて、危険な方法を実践することに懸念を示しつつ、デトックス法の拡散は、ワクチンの義務化が功を奏している印ではないかとも語る。
ラスムーセン氏は「どうやってワクチンを体外に出すかという動画が話題になることは実際、良い傾向だと思う」と指摘。「この現象は、これまで”ワクチンは有害だから絶対に接種しない”と言っていた人たちが、接種を受けるようになったという証拠」と語った。
ホウ砂さえ入れなければ、マデジ氏の入浴剤に害はなく、「お風呂に入って、リラックスしてワインでも飲みながら、死を招く恐れのあるウイルスの危険から解放された、と実感してほしい」と話した。