アメリカの多くの州で医療目的の大麻使用は認められているが、娯楽用の使用もワシントンDCと18州で認められている。ニューヨーク州に先んじて、お隣ニュージャージー州では4月からディスペンサリーと呼ばれる薬局の様な店で娯楽用大麻の販売が開始された。ディスペンサリーとは、一体どんな所なのか。実際に行ってみた。
ディスペンサリーとは?
ディスペンサリーとは(調剤)薬局と訳されることが多いが、Marijuana dispensary、あるいはCannabis dispensaryと呼ばれる大麻のディスペンサリーは州から許可を得て医療用や娯楽用の大麻を合法的に売っている店のこと。現在ニュージャージー州では12店のディスペンサリーが娯楽用大麻を取り扱っている。
今回、訪れたのはマンハッタンの中心から車で約1時間ほどのロシェルパーク(Rochelle Park)という場所にある「Ascend(アセンド)」という店。幹線道路沿いにあるものの、人目を引く看板を出しているわけではないので、うっかりすると見落としてしまうかも。
見落としてしまいそうな外観
駐車場にはパトカーが止まっていた。係員によると「現金と商品を狙う強盗に備えている」ということで、やや緊張感が走る。クレジットカードのショッピングが多いアメリカで何故この店に現金が多いかは後述する。
さあ、いよいよ入店の時が来た。店の中に入る前、来店目的とIDの提示を求められた。アメリカでは大きなオフィスビルでは入館の際に身分証明を求められることが多いが、ショッピング施設で入店時に求められることはあまりない。合法的に購入できる成人(21歳以上)であることを確かめる目的だろう。
オシャレな店内
店に入って感じたのは意外なほどに健全なムードが漂う、小綺麗でオシャレな空間だということ。ちょっと危険で怪しげな場所かもしれないと勝手に想像していたので、やや拍子抜けしてしまった。まあ、一言で例えるとアップルストアの様な店作り。訪れたのは平日の午前中だったものの、常時十数人の客が店内におり、商売が繁盛していることが窺い知れる。女性客は1〜2割で、白人男性の客が多いのが目についた。店員によると、4月の開店以来、毎日数百人が来店するという。
マリファナ界のアップルストア!?
店内の一部には医療用のコーナーもあったが大部分は娯楽用大麻に関するスペース。しかし、ショーケースや棚に置かれているのは大麻を使用する際の器具や関連製品ばかりで、大麻製品そのものは店頭には一切置かれていない。注文後、会計をする際に客には見えないところにある保管場所から持ってくるのだ。従って実物を見てから買うものを決めることはできず、その辺が普通のショッピングと異なる点だ。
大麻製品そのものは飾られていない。
カラフルな関連アイテム。お土産物グッズも充実。
ドドーン!なんなんでしょうかこれは💦
注文の仕方はというと、マクドナルドなどでお馴染みの注文用タッチパネルが店頭に設置されており、そこのメニューに示された製品群から欲しい品を選んで行う。品物の種類は、紙巻きタバコの様にして吸う花を乾燥させたもの(フラワー)、プリロールと呼ばれるすでに一本に巻かれたもの、ヴェポライザーで使用する液体状のもの、グミかキャンディーのような食用タイプなどの大麻製品と、関連アクセサリーなどバラエティに富んでいる。大麻製品の値段は15〜65ドルで、これが合法前の価格と比べて安いのか高いのかは知らないが、ライバル店も一斉に販売を開始したことだし、規制当局の眼も厳しいだろうから、現時点での適正価格なのではと推測する。
マクドナルドのオーダー感覚
あらかじめ注文していたものを取りに来た人や、買いたいものをすぐに決めることができる人は足早に会計へと進んでいくが、筆者のような門外漢はそうはいかない。
頼りになるバドテンダー
何を買っていいのやら分からない客にとって頼りになるのが、バーテンダーならぬ、バドテンダー(budtender)と呼ばれる店員さんだ。筆者のアテンドをしてくれたのは、20代と思しき若い女性。開店から日も浅いのに大麻の知識も豊富だ。種類による効果の違いや器具の使い方など、来店客が次から次へと訪れる中で、嫌な顔ひとつ見せずに懇切丁寧に教えてくれた。(どうもありがとうね)
クレジットカードは使えない!
会計の際に注意することはクレジットカードが使えないこと。ニュージャージー州では合法化されたが、連邦レベルでは依然として違法なので金融機関がクレジットでの支払いを認めていないのだ。この辺りがアメリカらしく、日本人には理解しにくい話だ。(ちなみにデビットカードは使用可能)そこで現金を持ち合わせていない客のためにATMが店内に設置されている。現金での支払いが多く、客数も多いとなると現金がこの店にかなり貯まることになる。それで強奪事件に備え、前述したようにパトカーが止まっているのだ。警官がいると分かっているところを襲う無謀な輩はそうはいないだろう。
公共の場での使用はダメ!
アメリカの保守的な州はかなり保守的なので、全米中にこうしたディスペンサリーができるとは考えにくいが、すでに法律上は合法化されているニューヨーク州で娯楽用大麻を販売するディスペンサリーが現れるのは時間の問題だ。しかし、いくら大麻の購入や所持が合法化されたといっても、公共の場での使用は許されていないので、くれぐれも使用はプライベートな場所に限ること。
それにしても、どんなものでもエンタメ化に長けたアメリカ。一旦合法化となると、こうも見事に健全娯楽のイメージを植え付けてしまうのかと実感した。その手際の良さに思わず脱帽。大麻に特別興味があるわけではないが、店員の態度の良さとワクワク感を漂わせる店の雰囲気に筆者は「また来ようかな」とマジで思った次第だ。