中国・上海で去年12月に身柄を拘束された日本人男性が6月、逮捕されていたことが7月になって明らかとなった。なぜ拘束されたか、逮捕されたかの具体的なことは発表されておらず、上海の日本総領事館が中国当局に面会を要請したが、未だに実現していないという。
中国は2014年に施行した反スパイ法により外国人への取り締まりを強化しており、2015年以降、スパイの疑いで16人の日本人が拘束された。中国に出張した大学教授(中国の近代史を専門とする)、現地で仕事に従事する商社マンなどバックグラウンドはさまざまではあるが、全てに共通するのは、“なぜ拘束されたか逮捕されたか具体的なことがはっきりしない”ことで、起訴され、懲役刑を下されるケースも極めて多い。判決を不服として控訴した日本人も複数いるが、それらは全て却下されている。
日本人以外の拘束事例も後を絶たない。中国とオーストラリアの関係が近年急速に悪化するなか、2019年1月、中国政治を論評するオーストラリア国籍の作家の男性がニューヨークから広州に航空機で到着した直後に拘束され、その後現地で逮捕された。2020年9月には、中国当局が同国国営テレビ局に勤めるオーストラリア国籍のニュースキャスターを拘束していることが明らかになった。また、中台関係も冷え込む中、2017年3月、長年中国の民主化を求める運動を行う台湾人の男性がマカオから広東省に入った後、中国当局に身柄を拘束された。その後、今年4月、中国で国家政権転覆罪により服役していた同男性は、5年間にわたる刑期を終え釈放され、台湾に戻った。
こういったケースは今後増えるのかもしれない。米中による戦略的競争は激しくなるばかりで、ロシアがウクライナに侵攻したことで、欧米とロシアの亀裂も冷戦終結後最悪のレベルに冷え込んでいる。今後、大国間対立が緩和に向かう可能性は限りなくゼロに近い。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻もあり、世界的には軍事的手段へのハードルはいっそう高まっていると考えられ、中国としてもなかなか軍事的手段を取りにくい。よって、対立国に対抗する手段としては、関税引き上げや輸出入制限などの経済制裁、もしくは対立国の国民の拘束などに比重が集まるであろう。習政権による外国人の監視はいっそう強化されるとみられるが、今後は日本人の拘束事例が増える恐れがある。
■筆者 カテナチオ:世界情勢に詳しく、特に米中やロシア、インド太平洋や中東の外交安全保障に精通している。現在、学会や海外シンクタンクなどで幅広く活躍している。