前回の記事では、ロシアによるウクライナ侵攻における米国の対応をみて、それで台湾有事へ警戒を強める台湾の変化を取り上げたが、今回は台湾へ攻勢を強める中国が取るもう1つの手段について紹介したい。
中国の台湾への攻勢を考えた場合、多くの人は軍事的威嚇や侵攻を想像するだろう。無論、それに誤りはない。しかし、国際情勢全般を捉えた場合、中国が攻勢を仕掛ける手段は何もそれだけではない。
金銭外交〜国交潰し
それを如実に現しているのが、中国の南太平洋への関与だ。最近、中国が南太平洋の国家ソロモン諸島と安全保障協定を結び、経済的関与の次は軍事的関与かと各国から強い懸念の声が上がっているが、豪州のシンクタンク「ローウィー研究所(Lowy Institute)」の調査によると、中国は 2006年からの10年間で、フィジーに3億6000万ドル、バヌアツに2億4400万ドル、サモアに2億3000万ドル、トンガに1億7200万ドル、パプアニューギニアに6億3200万ドルなど南太平洋諸国に莫大な経済支援を行うなど、南太平洋地域で強い存在力を示しているのだ。
しかも、それが功を奏しているのか、南太平洋では国交を台湾から中国に変更する国が相次いでいる。実は、南太平洋は世界でも有数の台湾と国交を持つ国々が集中する地域なのだ。今日、中国と国交を持つのはパプアニューギニア、バヌアツ、フィジー、サモア、ミクロネシア、クック諸島、トンガ、ニウエ、キリバス、ソロモン諸島の10カ国で、台湾と国交を持つのはマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルの4カ国である。しかし、上述のような経済支援もあり、キリバスとソロモン諸島が2019年に台湾と国交を一方的に断絶し、中国と新たな国交を樹立するなど、南太平洋では断交ドミノ現象が生じている。
今後、中国がこのままの勢いでマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルに接近し、あからさまに台湾との断交を促すことはないにしても、そのようなプレッシャーを強めていくことは間違いない。要は、中国にとって台湾は不可分な領域、国内の一地域であるので、台湾が持つ国交を潰していくことで、台湾に外交をできなくさせ、国交を持たないから台湾は国家ではないという既成事実を作り上げていく狙いがある。
ベリーズやパラグアイ、グアテマラ、ホンンジュラスなど中南米やカリブ海にも台湾と国交を持つ国々があるが、おそらく南太平洋と同じように中国は台湾断交を目指した中南米、カリブ海への接近も今後さらに進めることだろう。