1月29日に首都ワシントン近くのレーガン・ワシントン・ナショナル空港に向かう旅客機と陸軍ヘリが衝突し、ポトマック川に墜落した事故で、ピート・ヘグセス国防長官は記者会見で、ヘリに搭乗していた兵士らは「政府存続ミッション」に伴う「毎年恒例の再訓練」をしていたと明かした。
政府存続? ヘグセス氏は詳細について言及しなかったが、トランプ氏さえなじみのない計画のようだ。会見で記者から聞かれると、「何を指しているのかわからない」と答えた。
米英の報道によると、事故を起こしたヘリUH-60「ブラックホーク」が所属する第12航空大隊は、緊急事態が発生した場合に政府高官を首都ワシントンから安全な場所に避難させる任務を引き受ける。計画は極秘で、国防の専門家は「政府継続計画は、国防総省の最も厳格に守られている秘密の一つ」だと語っている。
9/11で発動
ロイター通信によると、米政府が存続作戦を発動したことが知られている最後の例は、2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件だった。
この時、第12航空大隊は高官らを首都から「隠れ場所」に移送するのに貢献した。
米政府は冷戦中に存続計画の一部として、核攻撃を受けた場合に高官や職員を避難させるため、首都周辺やその他の場所に数多くの核シェルターを築いたとされる。
「Raven Rock」(2018)の著者でジャーナリストのギャレット・グラフ氏によると、核シェルターはピーク時に100箇所以上あり、ほぼすべての政府機関に一つずつ割り当てられている。
その中でもペンシルベニア州レイヴン・ロックとバージニア州マウント ウェザーに巨大な複合施設があるとされる。
ワシントンポスト紙は以前、通称Site-Rとも呼ばれるレイヴン・ロック山の施設は、軍事指揮機能として機能するよう設計され、床面積70万フィートに3,000人が収容できると報じている。テロ発生から2002年の大半の間、チェイニー副大統領が「安全な非公開の場所」として使用していた。
消防署から警察署、医療施設、食堂など小都市のような機能を備えるといい、冷戦後に休止状態にあったものが9/11後に再稼働し、拡張されているという。
一方のマウント ウェザーは、長年にわたってホワイトハウスや最高裁判所、多くの主要機関の移転場所として機能してきた。9/11には議会指導部のほとんどがヘリで避難したと報じられている。
影の政府
テレビドラマ『ザ・ホワイトハウス』(原題:West Wing)シーズン1第5話では、ブラッドリー・ウィットフォード演じるホワイトハウス副首席補佐官のジョシュ・ライマンが国家安全保障会議のスタッフから「核攻撃時の避難パス」を与えられる場面がある。
緊急時に大統領専用機またはホワイトハウス地下の指揮センターに移動するよう告げるスタッフに、ジョシュは「他のスタッフも一緒に?」と尋ねる。しかし、その表情からパスは一部の者にしか与えられないことを悟る。
ワシントンポスト紙は2002年、ブッシュ大統領は同時多発テロの直後に政府機能の存続を確保するために「影の政府(Shadow Government)」を確立し、主要な2拠点に各政府機関から約100人の上級の管理職らが交代で派遣されていると報じた。
彼らは家族を連れてゆくことを許されず、理由も告げてはならない。地下で暮らし、24時間体制で勤務にあたる。第一陣はテロ攻撃から数時間後にヘリで首都を出発したという。
政府機能の崩壊を防ぐために地下に設けられた影の政府は、閣僚クラスの要人やその直属の代理人はほとんどおらず、各省庁のキャリアランクトップクラスの当局者から上級管理者といったメンバーで構成されていた。ホワイトハウスは「上級レベルの人材」が代表しているが、これはカード大統領首席補佐官やライス国家安全保障問題担当補佐官など閣僚級の顧問よりははるかに下のランクだった。
ブッシュ大統領は当初一時的な予防措置と考えていたが、テロのさらなるリスクの評価から、普遍的なプログラムとして作り直すよう説得されたという。
影の政府は極度の危機の際に政府機能を維持することを目的とした国家安全保障の重要なバックアップシステムとされる一方、一部の批評家は、9.11以降権限と予算が拡大しているとし、選ばれていない役人によるプログラムが民主的な抑制を離れて機能する危険を指摘している。