アメリカのユタ大学は2月8日、ユタ大学を中心とする研究チームが、地球温暖化対策として、太陽と地球の間にシールドを設け、太陽光線の一部を遮るというアイデアについて、新しいシナリオを提唱したと発表した。なかでも、最も有望なものは、月の表面から月の塵(ちり)を電磁砲などを使って、太陽に向かって打ち上げるシナリオだという。
IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)が2021年に公表した第6次評価報告によれば、何も対策が取られなかった場合、2100年までに地球の平均気温は最大で5.7℃ほど上昇する可能性があるという。これにより、海面の上昇、異常気象の頻発化・激甚化などさまざまな問題が懸念されている。
現在、地球温暖化対策としては、さまざまなものが考えられているが、その1つに、太陽と地球の間に遮蔽物でシールドを設けて、太陽光線の一部を遮るというアイデアがある。太陽光線の1~2%を遮ることができれば、地球温暖化の影響を緩和することができるという。
サイエンスフィクションのような話だが、研究チームが提唱したシナリオは、太陽と地球の間に塵でシールドを設け、太陽光線を遮るというアイデアについてのものだ。研究チームは、元々、太陽以外の恒星における惑星の形成について研究していたが、そこで培ったシミュレーションを使った研究手法をこの研究に応用した。ちなみに惑星は恒星を取り巻く「塵」とガスからなる円盤の中で形成されると考えられている。
まず、第1のシナリオは、L1点(ラグランジュ点1)に宇宙プラットフォームを設置して、塵をまくシナリオだ。ただ、L1点は、太陽と地球の重力がつり合い、物体が重力的に安定して存在できる場所ではあるが、塵は、非常に軽いために、太陽風や太陽放射、太陽系内の重力などの影響を受けて、すぐに四散してしまう。そのため、数日ごとに、大量の塵をまき続ける必要があるという。最も効果的な方法だが、地球から塵を持っていくとなると、まさに天文学的な費用と労力が必要になる。
これに対して、研究チームが推すシナリオは月からL1点に塵をまくシナリオだ。
月には40億年以上の歳月をかけてつくられた莫大な量の塵が存在している。しかも、この塵はシールドとして利用するのに適した特性を持っているという。これを月の表面から太陽(L1点)に向けて打ち上げるのだ。このシナリオなら費用と労力をより抑えられる。
なお、塵を打ち上げる装置については、研究チームを率いたベン・ブロムリー教授は、ワシントンポスト紙に「電磁砲やロケットなどのようなものが考えられます」と語っている。
最後に、研究チームは、今回の研究成果は、「温暖化対策のための1つのオプションであり、時間稼ぎになるでしょう」と締めくくっている。
(翻訳・執筆/飯銅重幸)