長期化するウクライナの戦争が世界経済に打撃となる中、欧州連合(EU)の当局者らの間で米国は戦争から利益を得ていると不満の声が上がっているという。
ポリティコは24日付の記事で、複数のEU高官に行った取材内容を掲載。その中で高官の一人は、「冷静に見ると、戦争で最も利益を得ているのは米国だと分かる。なぜならエネルギーは(欧州向けに)より高値で売れ、武器もより多く売れるからだ」と指摘した。また、EU諸国ではウクライナ支援の姿勢を見直す声が高まっているといい、「我々は歴史的局面に来ている。米国はEU各国の世論に変化が起きていることに気づくべきだ」と述べた。
欧州では、エネルギーのロシア依存から脱却し、米国からの輸入の増大をはかっている。ただしヨーロッパと米国の消費者では、同じ燃料費でも支払う価格に4倍近くの開きが出ているという。
これらの不満に拍車をかけているのが、バイデン大統領の国内政策で、オランダのシュラインマッハー貿易相は、今年8月に米国で成立したインフレ抑制法を、大きな懸念事項だと指摘。「ヨーロッパ経済に非常に大きな打撃となる可能性がある」とコメントした。欧州議会のトニーノ・ピツラ議員は「米国は、残念ながら同盟国に対して保護主義で差別的な国内のアジェンダに従っている」と批判した。
インフレ抑制法では、EV車の購入に適用される税額控除について、最終組み立てが北米で行われていることや、バッテリー部品の50%以上が北米で製造されているなどの要件が定められ、国内外で見直しを求める声が上がっている。
米国は自国の政策が追い打ちをかけていることへの認識が足りないと指摘も上がっている。EUのボレル外務・安全保障政策上級代表は、「我々の盟友、アメリカは、我々に経済的打撃を科す決定を下した」と強調し、米国と欧州諸国との協力関係を揺るがしかねない事態だと危機感を示した。
EU側の主張に対し、米国は元凶はロシアだと反論。米国家安全保障会議(NSC)の報道官はポリティコにあてた声明で「欧州でのガソリン価格高騰の原因は、プーチン大統領のウクライナ侵攻であり、プーチン氏の欧州に対する燃料戦争だ」と述べた。
NSCはFOXニュースの取材でも、米国は欧州の燃料供給確保に大きく貢献したと主張。「米国主導の世界的な液化天然ガスの供給増加により、欧州は冬に向けて十分な量を確保することができた。我々はEU、その加盟国、その他の欧州各国と協力し、冬以降に向けても十分な供給量を確保できるよう努める」と声明を出している。
また、米政府は現在の政策が、同盟国との協調路線を模索するバイデン政権の方針と矛盾するものではないとも強調した。昨年の政権交代時、バイデン大統領は、信頼できる同盟国としての米国が戻ってきた、と欧州に向けてトランプ前政権路線の脱却をアピールしていた。
ただEU当局者の受け止めは冷ややかで、外交官の1人はポリティコの取材に「インフレ抑制法はすべてを変えた。ワシントンは未だに我々の同盟国なのか疑問だ」とコメントしている。