互角の状況が続いている今年の大統領選は、ますます男女の戦いの様相を呈している。
MSNBCが先月報じたところによると、男性有権者ではトランプ氏が12ポイントリード、女性有権者はハリス氏がトランプ氏を21ポイント上回り、両方を合わせた数(Gender Gap)は33ポイントになっている。こうした数字が正確であれば過去最大となる。NBCによる2016年の出口調査をもとにしたデータでは24ポイント、2020年は23ポイントだった。
バージニア大学の政治学教授ジェニファー・ローレス氏は、ニューヨークタイムズの取材に、「男女格差が最終的に選挙を左右する可能性がある」と指摘。「民主党がそれを利用すれば勝利し、共和党が緩和すれば勝利する」と説明した。タイムズは、激戦州における重要グループの一つは女性で、多くは大学教育を受け、郊外に暮らす共和党支持者と無党派層だとしている。
選挙まで1か月と迫る中、トランプ氏も「緩和」を急務と考えているようだ。
先月23日にペンシルベニア州で開いた選挙集会で、自らを女性の「守護者」と宣言した。
「あなた方はもう見捨てられたり、孤立したり、怖がったりすることはない。もう危険にさらされることはない。あなた方は、もはや我が国が今日抱えるあらゆる問題に不安を感じることはない。あなた方は守られ、私はあなたの守護者になる。女性たちは幸せで、健康で、自信に満ち、自由になる。あなた方は中絶について考えることもなくなる」。
副大統領候補のJDバンス氏は、先週行われたTV討論会で、共和党が広く不評を買っている人工妊娠中絶をめぐる政策について「国民がわれわれを信頼していないこの問題で、われわれは国民の信頼を取り戻すためにもっと努力しなければならない」と理解を得るための努力不足を認めるなど、共感性をアピール。養育費の控除の拡大や不妊治療をより利用しやすくする考えを示した。
この討論会の最中、トランプ氏はTruthSocialの投稿で「誰もが知っているように、私はいかなる状況でも連邦政府による中絶禁止を支持しない」と投稿。「拒否権を発動する」としたほか、「強姦、近親相姦、母親の生命という3つの例外を全面的に支持する」と加えた。
2022年、トランプ氏が指名した3人の判事を含む連邦最高裁は、女性の人工妊娠中絶の権利を認めた1970年代の判断(ロー対ウェイド)を覆した。ニューヨークタイムズによると、20州がロー対ウェイドの基準よりも初期の中絶を禁止、または制限している。中絶規制の是非は州が決めるべきとして問題を中和化しようとするトランプ氏に対して、ハリス氏は中絶は憲法で認められた権利と主張。立法による中絶の権利回復を公約に掲げている。
守護者アピールの効き目は?
トランプ氏の「守護者」発言をめぐっては、一部で失笑を買っている。CNNは、「若く、大学出の独身女性は、男性に守ってもらう必要があるという考えに抵抗する可能性が高い」と指摘。ましてやトランプ氏は性的虐待訴訟で敗訴し、性的不品行の数々の申し立てを受けているとしつつ、両党のストラテジストは「伝統的な家族生活のパターンに異議を唱えてきた社会の変化に抵抗のない幅広い有権者、特に女性をさらに遠ざけるリスクがあると考えている」と報じた。
トランプ陣営が発する父権主義的なイメージは、ある意味で一貫している。
バイデン氏がまだ対抗馬だった7月に開催された共和党全国大会では、総合格闘技団体UFCの社長、ダナ・ホワイト氏が演説を行い、ハルク・ホーガンがシャツを破るパフォーマンスで喝采を浴びた。
バンス氏をめぐっては、副大統領候補の指名を受けた後、過去の発言「子供のいないキャット・レディ(一般的に、子供を持たないことを選んだ女性に対する軽蔑的な言葉と解される)」が浮上。批判にさらされた。
ただし、トランプ氏のメッセージが無駄とも言えない。民主党の世論調査専門家、セリンダ・レイク氏はCNNの取材に、移民問題にからめて危険から守るとするトランプ氏の発言は、労働者階級の年配女性に響く可能性があり、これには独立志向や民主党支持者の女性も含まれると見方を示した。
女性の有権者数は男性よりも多く、近年その差は1,000万人とされる。その上、女性の方が男性よりも投票率が高い。トランプ氏を「保護」と認識するのか、それとも「支配」として聞くのか。女性間の受け止め方の差が、結果に重要な影響を与えるかもしれない。