16日に放送されたカマラ・ハリス副大統領とFOXニュースとのインタビューについて、ハリス陣営は「目標」を達成できたと自信を示した。
The Hillによると、陣営の報道担当、ブライアン・ファロン氏は記者らに、「ハリス副大統領への投票にとてもオープンな考えを持っている無党派層とヘイリー・スタイルの共和党員が相当数いると思う。それだからわれわれは共和党やFOXニュースとのイベント開催に前向きなのだ」と出演の動機を説明。「ハリス副大統領が選挙活動で主張してきたことを聞いたことのない聴衆に訴えることができたという意味において、われわれは目標としていたことを間違いなく達成できたと感じている」と述べ、「敵対的なインタビュアーに毅然と立ち向かう強さを示すこともできた」と加えた。
この一方でトランプ陣営の報道官、カロリン・リーヴィット氏は、インタビューはハリス氏にとっての「大惨事」と酷評した。
「カマラ・ハリスとブレット・ベイヤーのインタビューは大惨事だ。カマラは怒り、守りに入り、またしても国民が直面している問題に対する責任を放棄した。彼女は答えを持っていないので、1つの質問にもはっきり答えることができなかった。カマラの選挙運動はすべてトランプ大統領に関する嘘を土台にしている。カマラはFOXニュースとのインタビューのプレッシャーに耐えることができない。米国大統領であることのプレッシャーにも当然耐えられない」。
ハリス氏をめぐっては、好意的なメディアにしか出演せず、厳しい質問にさらされていないとの批判が続いていた。FOXニュースはケーブルニュースとして最大の視聴規模を誇り、共和党支持者の大多数が同局から政治関連の情報を得ているとされる。保守派のプラットフォームへの出演は、選挙戦終盤でのハリス陣営の戦略転換を意味するとともに、「ライオンの巣」に自ら飛び込むようなものと報じられるなど、リスクが指摘されていた。
国境問題の責任は?
司会のブレット・ベイヤー氏が最初に用意したのは、移民・国境問題の悪化をめぐる責任だった。バイデン政権発足直後、トランプ政権の厳格な移民政策を緩和したことから、亡命を求めて南部国境から流入する移民が急増。AP通信によると、裁判所の未処理件数は昨年度中に100万件以上増加し、2019年の3倍に到達した。ハリス氏は2020年の大統領選予備選に出馬した際、民間の移民収容センターを閉鎖し、国外追放を制限するほか、不法滞在する移民に市民権取得の道筋を確保することを公約に掲げていた。
同問題について、ハリス氏は今月10日に放送されたCBSニュースのインタビューでも責任を問われたが、直接的な回答を避けていた。
今回のインタビューにおいて、ハリス氏は「優先順位の問題」と述べた上で、政権発足後に最初に取り組んだのは国境政策に関する法案だったと強調。国境警備隊員の増員、厳格な亡命手続き、大統領の国境閉鎖の権限拡大などをまとめた同法案について、トランプ氏が共和党議員に働きかけて成立を阻止したと非難を続けた。法案は今年、共和党議員と一部の民主党議員の反対により、上院の通過に失敗した。
ハリス氏は前述のCBSニュースでもトランプ氏の責任論を主張していた。
続けて、議会の取り組み以前に不法移民により女性らが殺害された事件で、ベイヤー氏が遺族への「謝罪」の意向を尋ねると、ハリス氏は同情を示しつつ、「しかし、解決に協力しない個人のために今起きていることについて話をしよう」と、トランプ氏に話を戻した。
5年前の立場を撤回
質問は、国境政策を含むハリス氏の立場の変更に及んだ。ハリス氏は民主党の候補者が乱立した2019年の出馬時、左派寄りの政策をアピールして戦った。今回の大統領選で中道にシフトしたことをめぐって、簡単に態度を変える候補者として保守派を中心に非難を受けている。さらに、一連の変更がハリス氏の政治家としてのスタンスを不明瞭にしているとの指摘がある。
2019年に唱えていた「違法な国境超え」の非犯罪化については、「私は非犯罪化を信じていない」と立場の変更を認めた。拘留された移民のうち、トランスジェンダーの人々に対して行政権限に基づく性別適合治療を提供する方針について、「法に従う」と述べつつ、再びトランプ氏に言及。「彼はこうした広告に2,000万ドルも費やして有権者に恐怖を植え付けようとしている。なぜなら、彼には計画がないからだ。この選挙は、国民のニーズに焦点を当てるかだ。ところが、2,000万ドルも費やしたのは国民にとって最大の問題なのか?極めてごくわずかだ」と批判に転じた。続けて「私は手頃な住宅価格を提案している。われわれがやらなければならない、国家にとっての屋台骨であるスモールビジネスの強化の取り組みを提案している。・・・」と自身の経済政策をアピールした。
バイデン氏政権との違い
過去2回のテレビインタビューをめぐって、明確な答えを示さなかったとして批判を浴びたバイデン政権との違いに質問がおよぶと、「はっきりさせておきたいのは、私の大統領職はジョー・バイデン氏の大統領職の延長ではないということだ」と説明。「就任するすべての新大統領と同様に、私は自分の人生経験、職業経験、そして斬新なアイデアを持ち込む。私は新世代のリーダーシップを代表している」としたほか、「ワシントンの政界にキャリアの大半を費やした人物ではない」と語った。
「ページをめくる」の真意は?
3年以上副大統領の座にありながら、なぜ「ページをめくる」をスローガンに掲げているのかを問われると、ハリス氏は再びトランプ氏に言及。
「ドナルド・トランプ氏のレトリックに悩まされてきたこの10年間からページをめくることだ。このレトリックは国を分裂させ、国民が文字通り互いに指を差すように仕向けるために考えられ、実行されたものだ」と語った。
理想のリーダー像について語り始めたハリス氏に、ベイヤー氏が、現政権下で「79%以上の人々が、国家が誤った方向に向かっていると言っている」とデータを示すと、「そして、ドナルド・トランプが出馬している」と話しを続けた。
その後、二人の話はさらに噛み合わなくなる。
ベイヤー氏:しかし、政権の座にいたのはあなたですよ。
ハリス氏:よしてよ。あなたも私も何を話しているかわかっているでしょ。
ベイヤー氏:実際のところ、あなたが何を言っているのか分かりません。
ハリス氏:過去10年間で私には明らかだった。・・・彼は大統領として不適格であり、不安定で、危険であり、国民は疲れ果てている・・・。
インタビューの後半も、バイデン氏の衰えをめぐって、「過去3年半、少なくとも週に1回は彼と会っていました。… 何も心配はなかったのですか?」と問い詰めるべイヤー氏に対して、ハリス氏が「国民はドナルド・トランプ氏を懸念していると思う」とはぐらかし、再びトランプ氏の適格性をめぐる議論に転じるなど、紆余曲折と平行線を辿る場面が目立つインタビューとなった。