米国で原爆の開発を率いた物理学者ロバート・オッペンハイマーの半生を描いた映画『オッペンハイマー』は、今年のアカデミー賞で作品賞や監督賞など最多13部門にノミネートを果たした。これに対し、保守強硬派のジョシュ・ホーリー上院議員(ミズーリ州)が、3月のアカデミー賞授賞式では、政府の核実験で被害を受けた国民にスポットを当てるよう訴えた。
クリストファー・ノーランが監督を務めた同作品は、第二次世界大戦を描いた作品として、過去最高の興行成績を記録した。一方で、原爆投下による広島と長崎の惨状を描かず、被害を矮小化しているといった非難も上がっている。
ホーリー氏は25日、アカデミー賞を認定する映画芸術科学協会に宛てた公開書簡で、『オッペンハイマー』は「実験計画に対する説得力のあるストーリー」と評価する一方で、「これだけの月日が経った現在でも、核研究による健康的及び財政的な影響と向き合っている、取り残されたアメリカ人の物語に言及していない」と指摘。「未だ代償を払い続けている犠牲者も声をあげる権利があるのではないか」と主張した。
米政府が極秘に進めた核兵器開発プロジェクト「マンハッタン計画」では、20億ドルが費やされ、科学者やエンジニア、技術者から建設作業員を含む60万人が関与したとも言われる。しかし、国民はおろか議会にも知らされず、内部で働く者にさえ目的を悟られずに進められたと伝えられている。
The Hillによると、ホーリー氏は昨年、エリック・シュミット上院議員(共和・ミズーリ州)やベン・レイ・ルハン上院議員(民主・ニューメキシコ)など超党派で、昨年上院を通過した国防権限法(NDAA)の修正案に、放射線被ばく補償法の範囲をニューメキシコやミズーリ、アイダホ、モンタナ、グアム、コロラド各州へと拡大する案を盛り込んだが、最終的に実現しなかった。
30年前に制定された補償法には、第二次世界大戦時代の核実験やウラン鉱石採掘による放射線の影響を受けた人々を対象としており、セントルイスにあるウランの製造工場「マリンクロット化学工場」や「トリニティ実験」が行われたニューメキシコ州の住民は含まれていない。
ホーリー氏は、地元ミズーリでは「マンハッタン計画の放射性廃棄物が完全に除去されておらず」、西部の住民の多くは「核実験による被爆やその影響に関する真実を知らされていなかった」と説明。政府の核実験の過失で「無数の善良なアメリカ人が代償を支払っている」ことについて、授賞式の場で取り上げるべきだと主張している。