24日、イスラエルのネタニヤフ首相が米国議会を訪れ、1996年以来4度目となる両院合同議会で演説を行なった。
約50分にわたるスピーチで、親パレスチナ派の抗議者をイランの「役に立つ馬鹿」、国際司法の批判を「まったくのナンセンス」と一蹴。対ハマスで「完全な勝利」を達成すると誓った。バイデン氏が選挙から撤退したことで民主党の最有力候補となったハリス副大統領は、事前に予定していたイベントを理由に欠席した。
プロテスターを非難
「われわれの知るところでは、イランがこの建物の外や市中で行われている反イスラエルの抗議活動に資金提供している。プロテスターに言いたい:ゲイをクレーンに吊るして、頭を覆っていないからといって女性を殺害するテヘランの圧政者は、君たちを称賛し、助長し、資金を与えている。君たちは公式にイランの役立つ馬鹿になっているのだ。驚くことに、プロテスターの一部は”ゲイはガザのために”と書かれたプラカードを掲げている。”チキンはKFCのために”と書いたプラカードを持っているのと同じだ」。
ネタニヤフ氏の訪問に合わせて首都ワシントンに数千人の抗議者が集まり、一部が警官と衝突する様子も報じられた。ワシントンポスト紙によると、市警察と議会警察によって15人が逮捕、公園警察によって8人が拘束された。
昨年物議を醸した議会公聴会におけるアイビーリーグの学長らにも言及した。
「誤っているのは大学キャンパスのプロテスターだけではない。大学を運営する人々もだ。ホロコーストから80年が経ち、ハーバードとペンシルベニア大、恥ずかしながら母校であるMITの代表者はユダヤ人のジェノサイドの呼びかけを非難できなかった。彼らが何と言ったか覚えているか?文脈によると言ったのだ」。
国際司法は「ナンセンス」
「国際司法裁判所の検事はイスラエルが意図的にガザの人々を飢えさせているなどと恥ずべき主張している。まったくのナンセンスで、完全な捏造だ。・・・イスラエルが故意に民間人を標的にしていると非難している。いったい何の話をしているのだ。イスラエル国防軍はパレスチナ市民を危険から救おうと何百万枚ものビラを撒き、何百万通ものテキストメッセージを送り、何十万回も電話をかけた。しかし同時に、ハマスはパレスチナの民間人を危険地帯に置こうとできる限りのことをしている。彼らは学校や病院、モスクからロケット弾を放ち、紛争地帯から去ろうとする人々を撃ちさえする。・・・イスラエルにとって、民間人の死は悲劇だが、ハマスにとっては戦略だ」。
道具を与えれば、われわれが仕事を終わらせる
対ハマス戦は米国のための戦闘でもあると強調。優先的に兵器提供するよう訴えた。
「イランは真にアメリカに挑戦するには、最初に中東を支配しなければならないことを理解している。そのためにフーシ派、ヒズボラ、ハマスといった多くの代理勢力を使っている。しかしながら中東の中心部でイランに立ちはだかるのは、親米の民主主義国家である我が国、イスラエルなのだ。だからテヘランの暴徒は”アメリカに死を”と叫ぶ前に”イスラエルに死を”と合唱するのだ。イランにとってイスラエルが最初で、次はアメリカだ。それゆえにイスラエルがハマスと戦う時、われわれはイランと戦っている。ヒズボラと戦う時、イランと戦っている。フーシ派と戦う時、イランと戦っている。そしてイランと戦う時、われわれは最も過激的で残忍なアメリカの敵と戦っているのだ」。
「迅速なアメリカの軍事支援がガザの終戦を劇的に早め、中東の戦火拡大を防ぐのに資する。第二次世界大戦でイギリスが文明の最前線で戦う中、ウィンストン・チャーチルがアメリカ人に訴えた有名な言葉がある。”道具を与えれば、われわれが仕事を終わらせる”。今日、イスラエルは文明の最前線で戦っているのであり、私もアメリカ人に訴えたい。”道具を速くあたえるほど、われわれは素早く仕事を終わらせる”」。
ガザの理想の姿は戦後のドイツや日本?
「ハマスを倒した翌日、新たなガザが出現する。その日の私のビジョンは、非武装化され、脱過激化されたガザだ。イスラエルはガザへの再入植を求めていない。しかし当面は、テロの再発を防ぎ、ガザがイスラエルにとって再び脅威とならないように治安管理を維持せざるをえない。ガザはイスラエルの破壊を求めないパレスチナ人の文民政権によって運営されなければならない。行き過ぎた要求ではないだろう。われわれが要求し、享受する権利として基本的なことだ」。
「パレスチナの新世代はユダヤ人を憎むように教育されてはならず、われわれと平和に暮らすことを教えられるべきだ。非武装化と脱過激化という二つのコンセプトは、第二次世界大戦後のドイツと日本に適用され、それが数十年におよぶ繁栄と安全へと導いた。われわれの勝利に続き、地域のパートナーの支援を得て行うガザの非武装化と脱過激化は、安全と繁栄、平和の未来に導くことができる。それが私のガザに対するビジョンだ」。
NATOの中東版を提案
「戦後、アメリカは増大するソビエトの脅威に対抗するためにヨーロッパと安全保障同盟を形成した。同様にアメリカとイスラエルは、増大するイランの脅威に対抗するために中東において安全保障同盟を結成することができる。イスラエルと平和を保つすべての国、イスラエルと和平を結ぶすべての国はこの同盟に招かれるべきだ」。
バイデン氏とトランプ氏に感謝
スピーチの冒頭、先日選挙戦からの撤退を表明したバイデン大統領に感謝を述べ、終盤でトランプ氏に謝意を表明した。
「人質のために、人質の家族のために尽力するバイデン大統領に感謝したい。10月7日の残忍な攻撃後の心からの支援に感謝する。彼はハマスを”完全な悪”と正しく呼び、戦争の拡大を防ぐために空母二艦を派遣した。最も暗い時期にイスラエルに来てわれわれと共に立った。決して忘れない訪問だ。バイデン大統領と私は40年来の知り合いだ。半世紀におよぶイスラエルへの友情に感謝したい。彼は誇り高きシオニストと言ったのだ。実際に彼は、誇り高きアイリッシュアメリカンのシオニストだと言っている」
「歴史的なアブラハム合意を仲介したトランプ大統領のリーダーシップに感謝したい。アメリカ人と同様に、イスラエル人もトランプ大統領が卑劣な攻撃、米国の民主主義に対する卑劣な攻撃から無事に生還し安堵した。民主主義に政治的暴力の余地はない」。
ネタニヤフ氏は25日にバイデン氏およびハリス副大統領と個別に会談し、26日にトランプ氏とフロリダのマール・ア・ラーゴで会うと報じられている。
民主党議員らボイコット
ネタニヤフ氏の訪問に先立ってナンシー・ペロシ元下院議長を含む30人を超える民主党議員が欠席を発表した。
ペロシ氏はXの投稿で、この日のネタニヤフ氏の演説内容について「米国議会に招かれて演説し、栄誉を与えられた外国高官の中で、最悪のプレゼンテーション」と酷評。上院外交委員会で近東・南アジア・中央アジア・テロ対策小委員会の議長、クリス・マーフィー議員(民主党 コネチカット)は「ガザにおける人道的な惨事に異論を唱えるアメリカ人はすべてハマスの同調者であるという主張は、度を越している」と批判。「予期していたとおり、このスピーチは米・イスラエル関係とハマスとの戦いを後退させるものだ」と投稿した。
一方、共和党のリンジー・グラハム上院議員は、ネタニヤフ氏の演説を「英雄的」「歴史的スピーチ」と称賛。「イスラエルの敵がアメリカの敵であることを思い出させただけでなく、アブラハム合意を基にアラブ・イスラエル紛争を終結させる地域統合のビジョンも提示した」と評価した。