嗜好目的のマリファナが合法化がされた州で、麻薬探知犬が早期引退を余儀なくされているという。NBCニュースが伝えた。
7月1日から合法化されるバージニア州の州警察では、K-9ユニットと呼ばれる警察犬部隊のうち、マリファナを含む薬物を探知するよう訓練を受けた犬13頭が予定より早く引退させられることになった。同州では7月以降、21歳以上の成人であれば1オンス(約28g)までのマリファナの嗜好目的での所持が可能になる。
州警察以外の小規模な警察署や保安官事務所でも、それぞれ1~2頭が引退させられるという。新たにマリファナ以外の違法ドラッグを探知する犬を購入・訓練しなければならないが、費用は一頭あたり1万5,000ドルかかる場合があり、費用を捻出できない一部の警察署で、K-9ユニット自体を解散するケースもあるという。
複数の種類の薬物を探知するよう訓練された犬は、全てに同じように反応するため、マリファナとそれ以外の違法薬物を区別することができない。また量による嗅ぎ分けができず、マリファナが許容範囲の量か、それ以上かの判別もできない。警察にとっては、捜索にあたって相当の理由を確立できないことを意味する。
ベッドフォード郡保安官事務所のマイク・ミラー(Mike Miller)氏は、「マリファナ探知を訓練した犬はもう使わない。裁判になれば、被告側の弁護士が『K-9の示した匂いは何だ?-マリファナか、他の違法薬物か?』と突いてくるからだ」と話した。
ミラー氏の事務所では1頭はすでに引退させ、もう1頭は容疑者を追い捕まえるためだけの警察犬として使っている。さらに、マリファナの匂いを探知する訓練をしていない犬を購入済で、これから他の違法薬物を探知するために使うことを予定している。予算が許せば、もう1頭新たな麻薬探知犬を購入したいと話している。
なおバージニア州ではマリファナ合法化の前に、3月の時点で、警察がマリファナの匂いだけを理由に職務質問や捜査を行うことを禁じる法律が施行されており、各機関は、早くから対応を進めていた。
米警察犬協会のディレクター、ドン・スラヴィク(Don Slavik)氏は、すでにマリファナを合法化している各州でも同様の動きが起きていると指摘。「犬は一度特定の動きを訓練すると、二度と元に戻せない。警察としては薬物探知を誤るわけにはいかず、新たな犬を使うしかない」と話した。
これまでの麻薬探知犬を使えないのは、判例が示している。
全米で最も早い2014年にマリファナを合法化したコロラド州では2015年、モファト郡保安官事務所の麻薬探知犬「キロ」が、ある男のトラックを探知した。中から白い粉が残ったメタンフェタミン用のパイプが発見され、1審で男は有罪となったが、控訴裁は2017年、マリファナと違法薬物を区別できないキロの警告は違法行為を示す証拠としては信頼性を欠くとし、警察がトラックを捜査した法的根拠を認めず、男を無罪とした。州最高裁も、この判決を支持した。
2016年に嗜好目的のマリファナを合法化したマサチューセッツ州では、クインシー市警察で、2頭の警察犬の任務を麻薬探知からパトロールに変更し、1年半後に引退させた。同警察署の警察犬責任者、ボブ・ギラン(Bob Gillan)氏は「通常、違法薬物を運ぶような人物は車内でマリファナを焚いている」と、法改正によって生じた抜け穴を利用していると指摘。「弁護士だったら『警察犬は合法の何か(違法薬物ではなく)を嗅ぎつけたにすぎない』と言うだろう」と述べ、マリファナ探知を訓練された犬は、麻薬密売人にとって、都合のいい逃げ口上になると話した。
引退後は?
7月1日の法律施行を前に、バージニア州警察は、新たな犬にMDMA、コカイン、ヘロイン、メタンフェタミンといった違法薬物を嗅ぎ分けるための訓練を急いでいる。引退する13頭は犬たちを訓練した調教師に引き取られるという。
一方、職員わずか17人のカンバーランド郡保安官事務所では最近、麻薬探知犬として活躍してきたベルジアン・シェパード「マンボ」を引退させた。新たな犬を迎える予算はないという。同事務所のダレル・ホッジス(Darrel Hodges)保安官は、「毎日一緒に過ごしてきた仲間で、すでに自分の一部になっている。突然離ればなれになるのはつらい」と語った。
ホッジス氏によると、マンボは調教師に引き取られ快適そうだという。今のマンボの様子について「素晴らしい暮らしをしている。家の中に自分の寝室まで与えられ、甘やかされているようだ」と話した。