黒人運動指導者マルコムXの暗殺事件からまもなく60年を迎えようとするなか、遺族らが司法省、CIA、FBI、ニューヨーク市警察を相手に、1億ドルの損害賠償を求める訴訟を提起した。
原告は、捜査機関は1965年マルコムXの警護を意図的に弱めて暗殺事件を許し、さらに事件後数十年にわたって不正行為を隠蔽したと主張している。被告にはエドガー・フーバーFBI初代長官や、リチャード・ヘルムズ元CIA長官など捜査関係者の遺産財団も含まれている。
マルコムXは1965年2月21日、マンハッタン北部ワシントンハイツにあるシアター「オーデュボン・ボールルーム」で演説を始めようとしたところ銃撃され死亡した。
起訴状によると、暗殺事件の5日前、ニューヨーク市警は、マルコムXのボディーガード2人を自由の女神の爆破を計画したとして逮捕した。しかし、計画をもちかけたのは警察の覆面捜査官であり、逮捕はFBIと市警察が、マルコムXの警備を弱めて暗殺が容易になることを知った上で共謀したものだった。
FBIは盗聴などの違法な監視活動を通じて、教団信者にマルコムX殺害の命令が下されていたことやマルコムXが繰り返して命の危険を感じていたことを確認していた。暗殺事件の一週間前には自宅に火炎瓶が投げ込まれる事件も起きていた。マルコムXはニューヨーク市警が保護要請に応じないとして、周囲に繰り返し不満を漏らしていた。また、自衛のために銃の許可申請を求めたが、決して許可されることはなかった。
原告は「被告人らは、マルコムXの暗殺を成功させる環境を積極的に推奨、協調、提供した」と主張している。
事件の捜査をめぐっては長年不可解な点が指摘されている。2020年にNetflixのドキュメンタリー『マルコムX暗殺の真相』が配信されると、真相解明を求める声が再燃。マンハッタン地区検事局が捜査の再開に着手し、翌年には実行犯とされた3人のうち、2人の有罪判決が取り消された。
原告は起訴状で、被告人は不当逮捕を行い、その結果2人の無実の人物が悪意ある訴追と不当な有罪判決を受けたとした上で、「この不正行為により、2人の無実の人物が投獄され、中傷され、マルコムXの暗殺における政府の役割が隠蔽された」と指摘。「何十年もの間、マルコムXの妻ベティ・シャバズ氏と原告、家族全体が未知の痛みに苦しんできた。彼らは誰がマルコムXを殺害し、なぜ殺害されたのか、ニューヨーク市警とFBI、CIAの関与の度合い、彼の死を確実にするために共謀した身元不明の政府のエージェント、その役割を不正に隠蔽したのは誰なのかを知ることができなかった」と批判している。