バードストライクによって、エンジンが停止した飛行機がハドソン川に緊急着水。乗員乗客155人が命を取りとめた航空事故「ハドソン川の奇跡」から10年が経った。
10年前の2009年1月15日、ニューヨークのラガーディア空港を発ったUSエアウェイズ(US Airways)1549便は離陸直後、カナダグースの群れが直撃し、2機のエンジンが完全に停止した。
サリーこと、チェズレイ・サレンバーガー(Chesley “Sully” Sullenberger)機長は、空港に引き返すのではなく、川に緊急着水するという判断を下した。機体は、ニューヨークとニュージャージ間のハドソン川に不時着し、乗員乗客計155人が無事に生還した。
この事故は世界に報じられ「ハドソン川の奇跡」(Miracle on the Hudson)と称された。サリー機長は、一躍全米のヒーローとなった。
その後、サレンバーガー元機長の自叙伝「Highest Duty」を元に、クリント・イーストウッド監督、トム・ハンクス主演で映画化された。
事故発生時の緊迫した様子と、その後の国家運輸安全委員会 (NTSB) による追究を描いた映画『ハドソン川の奇跡』(Sully)は、2016年に米国で劇場公開され、大きなヒットとなった。
生還者が当時の状況を語る
事故から10周年の節目に、乗客や元機長のサレンバーガー氏がテレビ出演し、当時や現在の心境を語った。
乗客の1人、エリック・スティーブンソン(Eric Stevenson)さんは、ABCの「Good Morning America」のインタビューで、「もうおしまいだと思った」と思い、名刺の裏に母親や姉妹、友人らに「愛してる」と別れを告げるメモを書き、ポケットに入れたという。「これが自分が最後にできることだと思った」とその時の心境を語った。メモは今でも保管しているという。
デニス・ロッキー(Denise Lockie)さんは、Foxニュースの「Fox & Friends」で、「キャビンから煙の匂いがした時、最悪の事態を考えた。音が聞こえ、すごい臭いがした時、最初に思い浮かんだのは、マンハッタンということもあり、テロリストによる攻撃と思った」と語った。「死ぬには若すぎる」と思ったが、機体が下降し「良い結末を迎えないだろう」とも感じたという。
乗客たちは、今でも毎年ニューヨークで懇親会を開催しているという。バリー・レナード(Barry Leonard)さんは「トラウマとなる事故と向き合うことの難しさについて、皆で話し合ったり、経験を分かち合うことができるため、大切な会だ」と語っている。
機長のサレンバーガー氏(67)は現在引退している。「現存する歴史の一部になったように感じる」とGood Morning Americaで語った。
「私たちの行動だけでなく、他の人全員が行ったことついても考える」と述べ、「他人同士のグループが、皆の命を救うため、危機を乗り越えた」と全員が助かるために一致団結したことを語っている。
増加するバードストライク
連邦航空局(FAA)によると、鳥やコウモリなどによるバードストライクの数は1990年から2016年に1,850件から13,408件へと700%増加している。
CNNによると、この増加の背景には、航空業界がよりバードストライクに着目し、報告数自体が増加したためミスリーディングだと指摘する専門家もいる。
JFK空港やラガーディア空港では、バードストライク防止策として、「ハドソン川の奇跡」以降約7万羽が殺処分されたが、効果は疑問視されている。
専門家は、適切な野生動物の管理と、パイロットへの訓練が、1549便のような事故防止に役立つだろうと述べている。